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共に支えあい、慈しみあい?

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窺うようにこちらを見てくる高遠と、目の前に差し出された指輪を交互に見ながら、私は混乱していた。

「えっと…。もしもし佑君?今何と仰いました?そして、これは何ですかね?」

「はあ?どっからどう見ても指輪だろうが。それ以外に見えるか?つーかお前、俺の一世一代のプロポーズをちゃんと聞いてなかったのかよ!」

「いや、聞いてたよ?聞いてたけど、何か信じられなくて…。だって佑、私との結婚すごく嫌がってたじゃない」

「別に嫌がってたわけじゃねーよ。ただ…色々考えてたんだよ」

高遠は気不味そうに視線を逸らして、ガシガシと頭を掻く。

嫌がっていたわけじゃないっていうのは嘘だ。私は今までずっと高遠の強い拒絶を感じていた。後遺症を恐れ、それによって私が不利益を被るのを避ける為に、高遠は常に私と一定の距離を取り続けた。どれだけ言葉を尽くしても、変わらなかった。

万が一、後遺症を発症したとしても、私がそれを不利益だなんて思うわけないのに。逆の立場だったら、絶対気にしないくせに。

とんでもない頑固野郎だと思うし、私の気持ちを侮っているとも思う。けれど、人の思考や価値観は、そう簡単には変わらない。
だから、私は長期戦を覚悟した。何度断られても心が折れないよう、後には引けぬよう、自分を追い込む為に大枚叩いて指輪を買ったのだ。

私が震える声で真情を吐露すると、高遠は片手で両目を覆い、天を仰いだ。

「マジでごめん。そこまでお前を悩ませてたなんて思わなかったわ…。
事故後、割とすぐにお前から結婚したいって言われたじゃん。あの時、本当はすごく嬉しかったんだ。けど、それまでお前は、俺が結婚の話をするのすら嫌がってたじゃん。だから、どうせ勢いでいってんだろうなって思って…。同情や哀れみで結婚してもらっても虚しいだけだろ。まして、介護に追われる羽目になるかも知れないんだぜ?そんなん悲惨過ぎじゃん。だから…」

高遠が苦しげに言葉を詰まらせる。私は私の想いを侮るどころか、曲解している高遠に苛立ちを覚えた。

「はあ?この私が、同情や哀れみなんかで結婚したいだなんて言うわけないでしょ!?あんたと一緒にいたいから、あんたが好きだから言ったんじゃない!それに、さっきあんた、介護に追われる人生を悲惨過ぎっていったけど。それって、今現在介護を頑張っている方々にすっごく失礼だからね!」

声を荒げて苛立ちを吐き出すと、虚しさだけが残った。私は自分の真意を伝えるべく、真摯に言葉を紡いだ。

「先の事なんか誰にも分からないのよ。いつどうなるかなんて誰にもね。そんな事、今までだって分かってたつもりだったけど。今回の件で痛感したの。だから私、佑に結婚しようって言ったのよ。いつ何があっても後悔しないように。だって、もしかしたら明日、私の頭のう…」

「お前の頭の上に隕石が落ちて来て、死んじまうかも知れないってんだろ?…その話、耳タコだから。まあ殺傷能力がある大きさの隕石が落ちてくる確率も、それがお前の頭に降ってくる確率も、宝くじで一等を当てるより低そうだけどな」

「ないとは言い切れないでしょ?世の中に絶対はないのだよ、佑君!」

私が尤もらしく胸を張ると、高遠が小さく笑った。

「まあ絶対ないとは言い切れねーわな?隕石も落下する時に『これから落下します!皆さん気を付けて下さいね~!』なんてアナウンスしねーだろうし……いや、その前に喋れねーか?」

私は喋れたら怖いでしょと笑って、高遠を見上げた。高遠も笑っていたけれど、その瞳は潤んでいるように見えた。

「後悔しないように、か…。そうだよな。人生何があるか、マジで分かんねーもんな。…あのさ、全く根拠はねーんだけどさ。お前となら俺、どんな事でも乗り越えられる気がすんだよ。今回みたいに俺がヘタレても、お前が尻叩いてくれんだろ?
そうだな…。一秒先かも知れねーし、百年先かも知れねーけど。俺は生きてる限り、お前と一緒にいたいわ。
だから改めて、真尋!俺と結婚してください!…この指輪、はめてもいい?」

私が頷くとすぐに高遠は箱から指輪を取りだした。指輪を右手で持ち、左手で私の左手を取る。美しく輝くダイヤの指輪は、私の左の薬指にぴったりとはま……らずに、第二関節で見事につっかえた。
高遠がギュウギュウと力づくで押し通そうとするが、通らない。

「痛っ!ちょっとやめてよ!痛いでしょ!?ってか、何よこれ?全然入んないじゃないっ!」

「あれ?そんなわけ…。マジか?やっちまったか!?ウオオォォォ!!」

「もしかしてあんた、私の指輪のサイズを測らなかったの?」

「え?ああ、えっと、俺の小指よりちょっと細いくらいかなって…」

「どんだけアバウトよ!バカじゃないの!?」

「そんな事言ったって…。指輪のサイズの測り方なんて知らねーし!じゃあ何か?お前は俺のサイズをきっちり測ったとでも言うのかよ!それ、ちょっと貸してみろ!」

高遠は不貞腐れた顔で、私のひざ元に置かれた箱から男性用の指輪を取り出すと、それを自分の左の薬指にはめる。当然サイズはピッタリだ。

「…あれ?ぴったりじゃん。……すごいな、お前。けど、どうやって?」

「当然測ったのよ!入院中、ストローの袋を指に巻き付けて遊んだ事があったでしょ?あの時に!この方法でも正確には測定できないって言われてんのに。あんたってもう…。
こういうのってさ、一生に一度の事だから、思いっきりロマンチックに決めるとこじゃないの?感動するとこよね?それなのに…マジであり得ない!
……これから私、佑と上手くやっていけるのかしら?自信がなくなってきたわ…。そもそも、どうしてこんなアバウト過ぎる人間を好きになったのかしら?もしかして、この気持ちは幻?」

「ちょっと待て!悪かったよ!本当悪かったって!取り敢えず、サイズ直しに出そう、な?この埋め合わせはするからさ!
因みにその気持ちは、幻なんかじゃなくて本物だぞ!入院中、看護師さん達にさ、俺すっげー言われたんだぜ?『高遠さんって愛されてますね』って。
俺が事故に遭った日、お前死にそうな顔しながらロビーのど真ん中で、自分は俺の婚約者だって叫んだんだろ?大好きな俺の容態が分からなくて死ぬ程心配だって泣き喚いてたって聞いたぞ」

「何それっ!そんな事言ってないし、泣き喚いてなんかないから!って、こんな事じゃ胡麻化されないわよ、佑!この埋め合わせ、きちんとしてもらいますからね!」
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