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幸せは人にしてもらうものじゃありませんよ?
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――『まひちゃん!落ち着いて聞いて!さっき会社に連絡が入って、高遠が事故に遭ったって。小学生をかばって、歩道に突っ込んで来たトラックに轢かれたらしいわ』――
その後、どうやって高遠が運ばれた総合病院まで辿り着いたのか、よく覚えていない。
覚えているのは、体内で大きく響き渡っていた常よりも早い鼓動と混乱する思考。そして、極度の緊張と恐怖からくる嘔吐感だけだ。
私が乗ったタクシーが総合病院の入口に横付けされると、私はお釣りのやり取りをする間も惜しんで現金を多目に渡し、病院内へと駆けこんだ。
「すみません!さっき救急車で、高遠佑という男性が運ばれて来た筈なんですが!どこに行けば会えますか?容態はどうなんでしょう?」
私は大きな声で受付の人に声をかけた。ロビーにいた人達が何事かと振り返ったけれど、そんな事を気にする余裕はなかった。
「緊急搬送されて来た方ですか?それならERの方かと。ERの看護師なら、事情を把握していると思いますので、そちらで訊いて下さい」
受付の女性からERの場所を教えてもらい、私は小走りで向かった。
高遠を失ってしまうかも知れないという絶望に似た恐怖。
もっと早く素直になっておけばよかったという強い後悔の念。
それらが、まるで太い茨の蔓のように足先から全身へと絡みつき、私の身を竦ませる。
常よりも早い鼓動が体内で煩いくらい響いている。息が上手く吸えなくて、ひどく息苦しい。唇の震えが止まらない。
ER前に着いた時、ちょうど処置室から看護師さんが出て来た。高遠の容態について訊ねると命の別状はないと言われた。高遠は先程検査を終えて、もうすぐにICUに移るという。
詳しい容態については医師から説明があるので、家族が揃ったら声を掛けて下さいと言って、看護師さんは処置室の中へと戻っていった。
命に別状はない。その言葉にひどく安堵した。身体から力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになったその時、「真尋ちゃん!」と背後から名前を呼ばれた。振り返ると、先日お会いしたばかりの高遠の母親と、高遠によく似た壮年の男性が、青ざめた顔をして現れた。
「佑は?佑の容態はどうなの?」
「私も今来たところなので詳しい事はまだ何も。ですが、命に別状はないそうです。既に処置も検査も済んでおり、この後ICUに移されるようです。詳しい容態については、後程お医者様から説明があるということでした」
「そう…。ありがとうね、真尋さん」
「いえ、私は何も」
「まったく!だからあれ程、道を渡る時は左右を確認するように言ったんだ!」
「もう、お父さんったら!佑が飛び出したわけじゃないんだから、そんなふうに言わないの!まったくこんな時に…」
高遠の母親は、その男性が高遠の父親であること、今の不謹慎な発言は現実逃避する時の癖のようなもので、不測の事態が起きた時はいつもこうなのだと夫を窘めるように言った。
暫くすると、先程の看護師が再び処置室から出てきた。
「皆さんお揃いになりましたか?」
その問いかけに高遠の母親は頷いた。「では、医師からの説明がありますので、ご案内します」と看護師は促すように先を歩き始める。
私は躊躇して足を止めた。求婚もされているし、気持ちの上では婚約者のつもりだけれど、結納どころか、家族との顔合わせすらしていない。そんな私が家族として同席していいのか躊躇したのだ。
看護師が怪訝そうに私を見て「どうなさいました?」と訊いてきた。私の気持ちを察した高遠の母親が「彼女は息子の恋人なんです。お医者様とのお話に同席してもらっても大丈夫ですか?」と確認してくれた。
「申し訳ございません。ご家族様がどうしてもと仰るなら、同席していただくことも可能ではありますが。病院の方針といたしましては、ご家族様だけにお話させていただくことになっております」
最近は個人情報の取り扱いが厳しいのだと看護師は気不味そうに言った。
「では、私は佑さんの家に行って入院に必要な物を持ってきますね。戻った時に、差し支えない程度で結構ですので、私にも佑さんの容態を教えてください。では、一旦失礼します」
私は高遠のご両親に頭を下げて、その場を離れた。
「結局、籍が入ってないと、何もできないんだよねぇ。そりゃそっか、籍が入ってなきゃ他人だもんね」
当たり前のことを独り言ちながら、私は高遠の家へと向かった。
私が必要な物を揃えて病院に戻ると、高遠の両親はロビーの椅子に腰かけ、項垂れていた。想像よりも深刻なのかも知れない。私は覚悟を決めて、高遠の母親に声をかけた。
高遠が負った怪我は、トラックとの衝突による全身打撲。それと右前腕と頭蓋骨の骨折という重傷だった。骨折については特別な処置を必要としない為、何もなければ一か月程度で退院できるという。
だが、話はそれだけではなかった。他にも懸念材料があったのだ。
救急隊が駆けつけた時、高遠には軽い意識障害があったらしい。更に、病院まで搬送される途中に吐いたので、脳が何らかの損傷を受けている可能性が高いというのだ。
CTの画像では、脳挫傷の特徴である出血や浮腫は見あたらなかったそうだが、稀に遅れて出る場合もあるらしく、日を改めてMRIを撮ってみないと何とも言えないらしい。
また、MRIやCTでは分からなくても後発的に症状が表れる場合もあるそうで、その時に考えられる症状(高遠の場合だと前頭葉を損傷による運動機能や失語障害。そして外傷性てんかんを発症する恐れなど)や、様々な可能性について説明されたのだという。
「お医者様は、万一の場合のことを考えて最悪の事態を話すんだろうけど。そんな起こるかどうかも分からないことを一度にたくさん言われたって、気が滅入るだけなのにね」
高遠の母親が力なくこぼすと、父親は「俺の息子はそんなヤワじゃない!絶対に何も起こらん!」と根拠のない自信を見せて胸を張っていた。対極な二人の姿に、私は苦笑をもらした。
その後、ICUに移った高遠と面会するご両親に付き添い、私もICU前まで移動した。しかし、家族ではない私は、ICU内に入ることはできない。
私は廊下からガラス越しに傷だらけの高遠と対面した。高遠の身体はあちこち変色して腫れ上がり、点滴やモニターの配線に繋がれ、包帯だらけで、とても痛々しかった。
私は高遠の身体をなぞるように目の前のガラスを指で撫で、「本当に無事でよかった」と湿った声で呟いた。
驚いたことに、翌日、高遠は個室に移された。
話す時は少し顔を顰めるし、声は弱々しいけれど、痛みも熱も薬でコントロールできるようで普通に会話することができた。
「…なぁ真尋。もしかしたら俺、後遺症が残るかも知れねーんだって」
「そっか。じゃあ、早く籍を入れなきゃね?私、今回つくづく『結婚』の重要性を感じたんだ。夫婦という家族であるのと、ただの恋人とだと、こういうまさか時に全然違うんだって。家族じゃないとお医者様からの説明も聞けないし、ICUにも入れない。入院の手続きなんかもできないし、本当に何にもできないの。
だから、早く『結婚』して、ちゃんと家族になろうね」
「お前…。俺の話聞いてた?後遺症が残るかも知れねーんだって」
「うん。ちゃんと聞いてたし、知ってるよ?万が一そうなったとしても、私が働いているんだから生活の心配はないよ。それに、もし佑の容態が悪くなって介護が必要になっても、介護休暇取るし。ね?安心でしょ?」
高遠は私から顔を逸らすように、顔を反対側に向けた。そして暫く沈黙した後、苛立ったように声を荒げた。
「俺はもうお前と結婚する気ねーよ!お前バカじゃねーの?何でわざわざ苦労するような道を選ぼうとしてんだよ!俺はお前を誰よりも幸せにしてやりたかったんだよ!こんな不幸になるのが目に見えてるような状態で、結婚なんかできるかよ!
……寧ろ俺は、お前の為にも、別れるべきだと…そう言いたかったんだ」
「…別れる?佑は私と別れたいの?私のこと嫌いになったの?」
「んなわけねーだろ!大事に思ってるからこそ、お前には幸せになって欲しいんだよ!だから…俺から解放してやるよ。
そもそも、お前の俺に対する想いは本物じゃない。まやかしなんだよ。
あの人に裏切られて弱ってる時に、心底自分に惚れこんでる男が傍にいて、そいつに強引に言い寄られたら、そりゃ引き摺られんだろ?そろそろ目を覚ませ!お前には、俺なんかよりもよっぽど似合いのヤツがいるから」
「何よそれ!あんた本気で言ってんの!?もし本気で言っているなら、私も本気で怒るけど!
そんな可能性があるっていうだけのことを理由にして、私と別れようっていうわけ?いつも無駄にポジティブなくせに、何でこんな時だけ弱気なのよ!いい?そんなこといったら、私だって、いつ頭の上に隕石が落ちてきて死んじゃうかわかんないのよ?
それに、私の気持ちがまやかしって何よ!あんた私をバカにしてんの?エスパーにでもなったつもり?残念ながらこれっぽっちも才能ないわね!だって、もし私の心が読めたら、そんな言葉、死んでも言えない筈だもの!」
私の気持ちを全否定された気がして、腹が立った。腹が立って仕方なかった。
確かに絢斗に裏切られて傷ついたし、弱ってもいた。けれど、決して高遠の想いに引き摺られて付き合い始めたわけじゃない。私がどれだけ高遠のことを愛しているのか。彼は全く分かっていない。私を信じていないのだ。
驚いたように目を瞠っている高遠を見据えながら、私は更に続けた。
「私の幸せを勝手に決めつけないでよ!うちのお母さんの再婚相手がいってたけどね。幸せって誰かにしてもらうものじゃなくて、自分が感じるものなんだって。
佑が私の幸せを勝手に決めつけ押し付けても、私は幸せになれないから!だって、私の幸せは佑と一緒にいることだもの!私の不幸せは佑といれないこと!
佑よりお似合いの奴なんていらないわ!私は佑がいいの!佑だって、私が泥酔して嘔吐した時、当たり前のように面倒見てくれたでしょ?私だって、佑がどうなろうと当たり前のように面倒見たいわ!家族って、夫婦ってそういうものでしょう?
本当に私の幸せを望んでるなら、こんな突き放すようなことを言わないで。ずっと、佑の傍にいさせて」
その後、どうやって高遠が運ばれた総合病院まで辿り着いたのか、よく覚えていない。
覚えているのは、体内で大きく響き渡っていた常よりも早い鼓動と混乱する思考。そして、極度の緊張と恐怖からくる嘔吐感だけだ。
私が乗ったタクシーが総合病院の入口に横付けされると、私はお釣りのやり取りをする間も惜しんで現金を多目に渡し、病院内へと駆けこんだ。
「すみません!さっき救急車で、高遠佑という男性が運ばれて来た筈なんですが!どこに行けば会えますか?容態はどうなんでしょう?」
私は大きな声で受付の人に声をかけた。ロビーにいた人達が何事かと振り返ったけれど、そんな事を気にする余裕はなかった。
「緊急搬送されて来た方ですか?それならERの方かと。ERの看護師なら、事情を把握していると思いますので、そちらで訊いて下さい」
受付の女性からERの場所を教えてもらい、私は小走りで向かった。
高遠を失ってしまうかも知れないという絶望に似た恐怖。
もっと早く素直になっておけばよかったという強い後悔の念。
それらが、まるで太い茨の蔓のように足先から全身へと絡みつき、私の身を竦ませる。
常よりも早い鼓動が体内で煩いくらい響いている。息が上手く吸えなくて、ひどく息苦しい。唇の震えが止まらない。
ER前に着いた時、ちょうど処置室から看護師さんが出て来た。高遠の容態について訊ねると命の別状はないと言われた。高遠は先程検査を終えて、もうすぐにICUに移るという。
詳しい容態については医師から説明があるので、家族が揃ったら声を掛けて下さいと言って、看護師さんは処置室の中へと戻っていった。
命に別状はない。その言葉にひどく安堵した。身体から力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになったその時、「真尋ちゃん!」と背後から名前を呼ばれた。振り返ると、先日お会いしたばかりの高遠の母親と、高遠によく似た壮年の男性が、青ざめた顔をして現れた。
「佑は?佑の容態はどうなの?」
「私も今来たところなので詳しい事はまだ何も。ですが、命に別状はないそうです。既に処置も検査も済んでおり、この後ICUに移されるようです。詳しい容態については、後程お医者様から説明があるということでした」
「そう…。ありがとうね、真尋さん」
「いえ、私は何も」
「まったく!だからあれ程、道を渡る時は左右を確認するように言ったんだ!」
「もう、お父さんったら!佑が飛び出したわけじゃないんだから、そんなふうに言わないの!まったくこんな時に…」
高遠の母親は、その男性が高遠の父親であること、今の不謹慎な発言は現実逃避する時の癖のようなもので、不測の事態が起きた時はいつもこうなのだと夫を窘めるように言った。
暫くすると、先程の看護師が再び処置室から出てきた。
「皆さんお揃いになりましたか?」
その問いかけに高遠の母親は頷いた。「では、医師からの説明がありますので、ご案内します」と看護師は促すように先を歩き始める。
私は躊躇して足を止めた。求婚もされているし、気持ちの上では婚約者のつもりだけれど、結納どころか、家族との顔合わせすらしていない。そんな私が家族として同席していいのか躊躇したのだ。
看護師が怪訝そうに私を見て「どうなさいました?」と訊いてきた。私の気持ちを察した高遠の母親が「彼女は息子の恋人なんです。お医者様とのお話に同席してもらっても大丈夫ですか?」と確認してくれた。
「申し訳ございません。ご家族様がどうしてもと仰るなら、同席していただくことも可能ではありますが。病院の方針といたしましては、ご家族様だけにお話させていただくことになっております」
最近は個人情報の取り扱いが厳しいのだと看護師は気不味そうに言った。
「では、私は佑さんの家に行って入院に必要な物を持ってきますね。戻った時に、差し支えない程度で結構ですので、私にも佑さんの容態を教えてください。では、一旦失礼します」
私は高遠のご両親に頭を下げて、その場を離れた。
「結局、籍が入ってないと、何もできないんだよねぇ。そりゃそっか、籍が入ってなきゃ他人だもんね」
当たり前のことを独り言ちながら、私は高遠の家へと向かった。
私が必要な物を揃えて病院に戻ると、高遠の両親はロビーの椅子に腰かけ、項垂れていた。想像よりも深刻なのかも知れない。私は覚悟を決めて、高遠の母親に声をかけた。
高遠が負った怪我は、トラックとの衝突による全身打撲。それと右前腕と頭蓋骨の骨折という重傷だった。骨折については特別な処置を必要としない為、何もなければ一か月程度で退院できるという。
だが、話はそれだけではなかった。他にも懸念材料があったのだ。
救急隊が駆けつけた時、高遠には軽い意識障害があったらしい。更に、病院まで搬送される途中に吐いたので、脳が何らかの損傷を受けている可能性が高いというのだ。
CTの画像では、脳挫傷の特徴である出血や浮腫は見あたらなかったそうだが、稀に遅れて出る場合もあるらしく、日を改めてMRIを撮ってみないと何とも言えないらしい。
また、MRIやCTでは分からなくても後発的に症状が表れる場合もあるそうで、その時に考えられる症状(高遠の場合だと前頭葉を損傷による運動機能や失語障害。そして外傷性てんかんを発症する恐れなど)や、様々な可能性について説明されたのだという。
「お医者様は、万一の場合のことを考えて最悪の事態を話すんだろうけど。そんな起こるかどうかも分からないことを一度にたくさん言われたって、気が滅入るだけなのにね」
高遠の母親が力なくこぼすと、父親は「俺の息子はそんなヤワじゃない!絶対に何も起こらん!」と根拠のない自信を見せて胸を張っていた。対極な二人の姿に、私は苦笑をもらした。
その後、ICUに移った高遠と面会するご両親に付き添い、私もICU前まで移動した。しかし、家族ではない私は、ICU内に入ることはできない。
私は廊下からガラス越しに傷だらけの高遠と対面した。高遠の身体はあちこち変色して腫れ上がり、点滴やモニターの配線に繋がれ、包帯だらけで、とても痛々しかった。
私は高遠の身体をなぞるように目の前のガラスを指で撫で、「本当に無事でよかった」と湿った声で呟いた。
驚いたことに、翌日、高遠は個室に移された。
話す時は少し顔を顰めるし、声は弱々しいけれど、痛みも熱も薬でコントロールできるようで普通に会話することができた。
「…なぁ真尋。もしかしたら俺、後遺症が残るかも知れねーんだって」
「そっか。じゃあ、早く籍を入れなきゃね?私、今回つくづく『結婚』の重要性を感じたんだ。夫婦という家族であるのと、ただの恋人とだと、こういうまさか時に全然違うんだって。家族じゃないとお医者様からの説明も聞けないし、ICUにも入れない。入院の手続きなんかもできないし、本当に何にもできないの。
だから、早く『結婚』して、ちゃんと家族になろうね」
「お前…。俺の話聞いてた?後遺症が残るかも知れねーんだって」
「うん。ちゃんと聞いてたし、知ってるよ?万が一そうなったとしても、私が働いているんだから生活の心配はないよ。それに、もし佑の容態が悪くなって介護が必要になっても、介護休暇取るし。ね?安心でしょ?」
高遠は私から顔を逸らすように、顔を反対側に向けた。そして暫く沈黙した後、苛立ったように声を荒げた。
「俺はもうお前と結婚する気ねーよ!お前バカじゃねーの?何でわざわざ苦労するような道を選ぼうとしてんだよ!俺はお前を誰よりも幸せにしてやりたかったんだよ!こんな不幸になるのが目に見えてるような状態で、結婚なんかできるかよ!
……寧ろ俺は、お前の為にも、別れるべきだと…そう言いたかったんだ」
「…別れる?佑は私と別れたいの?私のこと嫌いになったの?」
「んなわけねーだろ!大事に思ってるからこそ、お前には幸せになって欲しいんだよ!だから…俺から解放してやるよ。
そもそも、お前の俺に対する想いは本物じゃない。まやかしなんだよ。
あの人に裏切られて弱ってる時に、心底自分に惚れこんでる男が傍にいて、そいつに強引に言い寄られたら、そりゃ引き摺られんだろ?そろそろ目を覚ませ!お前には、俺なんかよりもよっぽど似合いのヤツがいるから」
「何よそれ!あんた本気で言ってんの!?もし本気で言っているなら、私も本気で怒るけど!
そんな可能性があるっていうだけのことを理由にして、私と別れようっていうわけ?いつも無駄にポジティブなくせに、何でこんな時だけ弱気なのよ!いい?そんなこといったら、私だって、いつ頭の上に隕石が落ちてきて死んじゃうかわかんないのよ?
それに、私の気持ちがまやかしって何よ!あんた私をバカにしてんの?エスパーにでもなったつもり?残念ながらこれっぽっちも才能ないわね!だって、もし私の心が読めたら、そんな言葉、死んでも言えない筈だもの!」
私の気持ちを全否定された気がして、腹が立った。腹が立って仕方なかった。
確かに絢斗に裏切られて傷ついたし、弱ってもいた。けれど、決して高遠の想いに引き摺られて付き合い始めたわけじゃない。私がどれだけ高遠のことを愛しているのか。彼は全く分かっていない。私を信じていないのだ。
驚いたように目を瞠っている高遠を見据えながら、私は更に続けた。
「私の幸せを勝手に決めつけないでよ!うちのお母さんの再婚相手がいってたけどね。幸せって誰かにしてもらうものじゃなくて、自分が感じるものなんだって。
佑が私の幸せを勝手に決めつけ押し付けても、私は幸せになれないから!だって、私の幸せは佑と一緒にいることだもの!私の不幸せは佑といれないこと!
佑よりお似合いの奴なんていらないわ!私は佑がいいの!佑だって、私が泥酔して嘔吐した時、当たり前のように面倒見てくれたでしょ?私だって、佑がどうなろうと当たり前のように面倒見たいわ!家族って、夫婦ってそういうものでしょう?
本当に私の幸せを望んでるなら、こんな突き放すようなことを言わないで。ずっと、佑の傍にいさせて」
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