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第51話:特別①
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――
過ぎ来し方より継承されし
時の経緯を証する
威厳の書物よ
我らの願いをここに示す
過去から学び
知識と知恵を修したい
現在を生き
未来へ命を繋げる者のために
天より嘱目する女神
両手の日輪と月輪が示すは
この世の心理
諸行無常 盛者必衰
我らは理の中に生き
遙か彼方へ
時を繋ぐ
――
いつものように心を込めて詩を詠うと、"御影の書”が白い光りに包まれた。
十秒ほど光りに包まれ、やがて静かに消える。
見た目には変化がないけれど、【言霊】スキルはちゃんと発動されたはず……。
うまくいったかドキドキしていたら、ルイ様がそっと私の肩に手を置いた。
〔大丈夫、心配しなくていい。君の力は私が一番よく知っている〕
「ルイ様……ありがとうございます……」
その温かい言葉で、私の心に湧いた不安は消えてしまった。
心の中で反芻するように思う。
大丈夫……自分の力に自信を持つのよ、ポーラ。
ルイ様は"御影の書”に手を触れる。
そっと表紙に指を走らすと……ゆっくりと開かれた。
さっき私が触ったときに感じた、強固な意志のような硬さはない。
次々と軽やかにページがめくられる。
【言霊】スキルがうまく効いてくれたんだ!
思わず、喜びの声を上げてしまった。
「本が……本が開きました、ルイ様!」
〔ああ、君のおかげだよ。私では絶対に開くことができなかった。……本当にすごい女性だ、君は〕
「もったいないお言葉をありがとうございます」
魔法文字の躍動感からも、ルイ様の嬉しさが伝わる。
頑張って……よかった。
意図せず、ホゥッと大きなため息をつく。
大丈夫と自分に言い聞かせても、やっぱりうまくいくか不安だったのだ。
私のため息の音が聞こえたのか、ルイ様は本をめくる手を止めて伝えてくれた。
〔ポーラ、疲れたろう。今日はもう休みなさい。私は少し解読をしてから上に戻るつもりだ〕
ルイ様の気遣いはありがたかったけど、私はできればまだ地下倉庫にいたかった。
やりたいことがあるのだ。
「あの……もしよかったら、地下倉庫の中を見学させていただいてもよろしいでしょうか? 見たこともないアイテムばかりなので、後学のために勉強させてほしいのです」
"深淵の鎧”や"降臨の剣”など、今日を逃すと一生見られないだろう。
それ以外にも、地下倉庫は興味を惹かれる物でいっぱいだった。
この先、同じくらい貴重な品の修理や調整を頼まれることがあるかもしれない。
チャンスがあれば、少しでも幅広い経験を積んでおきたかった。
〔もちろん、構わない。好きなだけ見学しなさい。何なら触ってもいい〕
「ありがとうございます、ルイ様」
〔では、少し集中するので扉は閉じるが、用があったら遠慮なく知らせなさい〕
そう書くと、ルイ様はぱたりと扉を閉める。
地下倉庫に静けさが戻った。
過ぎ来し方より継承されし
時の経緯を証する
威厳の書物よ
我らの願いをここに示す
過去から学び
知識と知恵を修したい
現在を生き
未来へ命を繋げる者のために
天より嘱目する女神
両手の日輪と月輪が示すは
この世の心理
諸行無常 盛者必衰
我らは理の中に生き
遙か彼方へ
時を繋ぐ
――
いつものように心を込めて詩を詠うと、"御影の書”が白い光りに包まれた。
十秒ほど光りに包まれ、やがて静かに消える。
見た目には変化がないけれど、【言霊】スキルはちゃんと発動されたはず……。
うまくいったかドキドキしていたら、ルイ様がそっと私の肩に手を置いた。
〔大丈夫、心配しなくていい。君の力は私が一番よく知っている〕
「ルイ様……ありがとうございます……」
その温かい言葉で、私の心に湧いた不安は消えてしまった。
心の中で反芻するように思う。
大丈夫……自分の力に自信を持つのよ、ポーラ。
ルイ様は"御影の書”に手を触れる。
そっと表紙に指を走らすと……ゆっくりと開かれた。
さっき私が触ったときに感じた、強固な意志のような硬さはない。
次々と軽やかにページがめくられる。
【言霊】スキルがうまく効いてくれたんだ!
思わず、喜びの声を上げてしまった。
「本が……本が開きました、ルイ様!」
〔ああ、君のおかげだよ。私では絶対に開くことができなかった。……本当にすごい女性だ、君は〕
「もったいないお言葉をありがとうございます」
魔法文字の躍動感からも、ルイ様の嬉しさが伝わる。
頑張って……よかった。
意図せず、ホゥッと大きなため息をつく。
大丈夫と自分に言い聞かせても、やっぱりうまくいくか不安だったのだ。
私のため息の音が聞こえたのか、ルイ様は本をめくる手を止めて伝えてくれた。
〔ポーラ、疲れたろう。今日はもう休みなさい。私は少し解読をしてから上に戻るつもりだ〕
ルイ様の気遣いはありがたかったけど、私はできればまだ地下倉庫にいたかった。
やりたいことがあるのだ。
「あの……もしよかったら、地下倉庫の中を見学させていただいてもよろしいでしょうか? 見たこともないアイテムばかりなので、後学のために勉強させてほしいのです」
"深淵の鎧”や"降臨の剣”など、今日を逃すと一生見られないだろう。
それ以外にも、地下倉庫は興味を惹かれる物でいっぱいだった。
この先、同じくらい貴重な品の修理や調整を頼まれることがあるかもしれない。
チャンスがあれば、少しでも幅広い経験を積んでおきたかった。
〔もちろん、構わない。好きなだけ見学しなさい。何なら触ってもいい〕
「ありがとうございます、ルイ様」
〔では、少し集中するので扉は閉じるが、用があったら遠慮なく知らせなさい〕
そう書くと、ルイ様はぱたりと扉を閉める。
地下倉庫に静けさが戻った。
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