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第50話:地下倉庫③

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〔うむ。ひと際貴重な品だから、さらに特別な部屋で保管している。こちらに来てくれ〕
「わかりました」

 ルイ様は地下倉庫を横切り、一番奥の壁まで歩く。
 壁には、これまた扉が埋まっていた。
 小さいけど頑丈そうだ。
 ルイ様が空中に掌を向けると、紫色の鍵が現れた。
 収納魔法でしまっていたのかと思ったけど、魔力で形作られた鍵だ。
 鍵穴に差し込み扉が開く。
 5m四方くらいの部屋だった。
 木製の机と椅子が一脚ずつ置かれており、机の上にそれはあった。

〔ポーラ、これが古の魔導書……“御影の書”だ。迎撃魔法の類はかけられていないから、近寄っても大丈夫だ〕
「は、はい。これが……“御影の書”なんですね」

 ルイ様に続いて、恐る恐る本に近づく。
 夜空のような深い藍色の表紙で、羽根を広げた美しい女神さまが描かれていた。
 右手には太陽、左手には満月を持つ。
 余白には見慣れない文字(古代文字かな……)が、隙間なく埋める。
 宙に浮かんだり禍々しい魔力を放ったりはしていないのに、地下倉庫のどんなアイテムより畏怖を感じた。
 一冊の本だけど、歴史を繋いできた風格だ。

〔表紙や背表紙、裏面の古代文字を解読した限りでは、古の時代の文化や当時生息した魔物に関する魔法が記されているようだ〕
「いつ頃書かれた書物なんでしょうか」
〔およそ千年前だろう。他にも知りたいことがあったら答えよう。私のわかる範囲でだが〕

 ルイ様から‟御影の書‟について詳しく教えてもらう。
 女神様は混乱に溢れた古の時代を治めたとされる神様で、太陽と月で繁栄と衰退の移り変わりを表しているらしい。
 実際に本を触らせてもくれた。
 たしかに、表紙はガチッとくっついたように硬くて開かない。
 そっ……と撫でると、柔らかな革の感触が歴史の重みを伝える。
 忘れずに辞書も持ってきたので、その場で言葉を探して詩を紡ぐ。
 しばし、羽ペンを走らせ、詩が完成した。

「できました、ルイ様」
〔頼む、ポーラ。君の力を貸してくれ〕

 “御影の書”の前に立ち、姿勢を正す。
 古の時代から続く価値ある書物。
 その解読に立ち会えるなんて、私は幸せだ。
 精神を集中させ、詩を詠う。
 ルイ様のために……。
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