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第29話:火事②

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――
 目抜き通りに輝く真紅の光
 蒼天を切り裂く幾重もの黒
 それは精霊が悪霊になる標

 空気は火照り
 体躯は焦がれる

 燃ゆる水を得し者たちよ
 我らを導く光とはならぬ
 消えたもう
 消えたもう

 そなたらが生み出す光は
 救いの光明とはならぬ
 消えたもう
 消えたもう
――


 詩を詠い終わると、炎の勢いが明確に弱くなった。
 顔を焦がすような熱気も弱まり、住民たちが歓喜の声を上げる。

「おい、火が弱くなったぞ! あのお嬢ちゃんの力だ!」
「水魔法でも消せない火を弱めるなんてすごいじゃないか!」
「お嬢さんは名の知れた魔法使いなのかい!?」

 みな、口々に私を褒めてくれた。
 火が弱まったおかげで、店の入り口にも空間が生まれた。
 煙もぐんと少なくない。
 チャンスだ。

「今のうちに、奥さんの救助をお願いします!」
「「了解! 任せておけ!」」

 叫ぶように言うと、男性が数人急いで店に入った。
 瞬く間に、一人のおばさんを抱えて戻ってくる。
 顔や腕は煤だらけだけど、目は開いて息もちゃんと吸えているようだ。
 店主のおじさんが抱き着くと、涙を浮かべながら抱きしめ返した。
 大通りは歓声と拍手で満たされる。

 ――よかった……生きていた……。

 人の命が救われ、私も心の底からホッとする。
 だけど、安心したのもつかの間、また火の勢いがぶり返した。
 住民たちの驚きと不安の声が響く。

「ポーラさん、大変ですっ。火がまた燃え始めましたっ」
「すぐ詩を作るわっ」

 きっと、新たな油や燃えやすい物に引火してしまったのだ。
 もう一度詩を作らなきゃ……!
 急いで辞書をめくり出したとき、パシュッという弾けるような音がして、私の前が暗くなった。
 ふっ……と目を上げる。
 目の前に、黒いジャケットを着た黒髪の男性が立っていた。
 おなじ黒でも、煙のような不気味さは微塵も感じない。
 むしろ、もう大丈夫だ、という強い安心感を覚えた。

〔待たせてすまない。後は私に任せなさい〕

 ……ルイ様だ。
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