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第28話:火事①

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「「火事!?」」

 エヴァちゃんとアレン君は目を見開く。
 どこで火事が起きているの……!
 私もまた、心臓がドキリとして周囲を見渡した。
 周りの住民たちも声が聞こえたのか、お店や家から出てくる。
 焦げ臭さとともに、東の方角の空に不気味な黒い煙がモクモクと立ち昇るのが見えた。
 ちょうど、商店街の影になっている場所だ。
 建物に邪魔され、広場からは詳細な状況がわからない。

「エヴァちゃん、アレン君! 急いで行ってみよう! あっちに煙が見える!」
「「うん(はい)!」」

 私たちは荷物を持ったまま、声が聞こえた方へ急いで駆ける。
 広場から出て商店の角を曲がった瞬間、言葉を失ってしまった。
 大通りに面した建物の一か所から、ゴウゴウ……という音が聞こえるほど炎が勢いよく燃え盛る。
 血のように赤い炎が、闇の死神を思わせるほど黒い煙とともに……。
 数十mは離れているのに、熱気で顔が焦げそうだ。
 炎と煙の隙間からわずかに見える看板に、“ロコルルレストラン”と見えた。
 火元はレストランか。
 住民たちがバケツで何度も水を被せたり、水魔法を使って消化を試みているけど、火の手はまったく緩まない。
 エヴァちゃんとアレン君は唖然とした様子で呟く。

「ど、どうして、火が消えないの……変だよ。きっと、悪い魔女が魔法をかけたんだ……」
「あんなに水をかけているのに消えないのはおかしいです……。もしかして、悪魔の呪いなんじゃないでしょうか……」

 二人の疑問はもっともだけど、あれは魔女の魔法でも悪魔の呪いでもない。

「あれは……油が燃えている炎だよ。だから、消えにくいんだと思う」
「「油が……?」」

 油が燃えると、白い煙より何倍も人間に毒がある黒い煙を放つ。
 水をかけてもなかなか消えない。
 本で読んだ通りだった。
 そう思ったとき、ひと際大きな男性の声が轟いた。

「頼む! 家内がまだ中にいるんだ! 火を消してくれえ!」

 レストランの店主だろうか。
 シェフの格好をした小太りの男性が、住民たちにしがみつくのが見える。
 家内がまだ中に……という言葉を聞き、この場にいる誰もが息を呑んだ。

「わたし、ご主人様に知らせてくる! アレン、ポーラちゃん、荷物をお願い!」

 エヴァちゃんは地面に荷物を置くと、お屋敷へ向かって走り出した。
 ルイ様ならこんな火事でもすぐ消せるだろうけど、片道二十分はかかるし帰りは緩やかな登り坂だ。
 いくら足が速くても、最低十五分はかかってしまうだろう。
 火の手は隣の家々にも回りそうだし、取り残された人の命が危ない。
 とても待ってなどいられなかった。
 かつてない速さで辞書をめくり、大急ぎで詩を作る。

「ポ、ポーラさん、何をやっているのですか。」
「【言霊】スキルで消化するのよ」

 水魔法がダメでも、【言霊】スキルならどうにかできるかもしれない。
 何より、ジッとしてなどいられなかった。
 必死の願いを込めて詩を詠う。
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