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第23話:枯れそうな汚い花(Side:シルヴィー②)①
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「ククク……ようやくこの日が来たわ」
自室で髪をセットしながらも笑みが零れてしまう。
一週間ほどあたくしを苦しめていた風邪が治った。
熱も下がったし喉や頭の痛みも消えている。
あの後、モンディエール侯爵から見舞いの果物が届いたけど、あたくしが全部食ってやった。
最高においしかったわ。
ルシアン様のせいで余計な時間がかかってしまったわね。
でも、体調さえ戻ればもう大丈夫。
今日から新生"言霊館”の始まりよ。
色々と運ぶ物があるので、ルシアン様も呼んでいた。
もうじき来るはず……。
"言霊館”の前で待っていたら、やがてダングレーム家の馬車が止まった。
ルシアン様は降りるや否や、開口一番に告げる。
「シ、シルヴィー、すまねえ。今日は用事があってだな。すぐに帰らなきゃいけねえんだ」
「……は?」
憎悪を込めた眼で睨む。
話が違うじゃないの。
「い、いや、大丈夫だっ。何でもないっ」
睨むや否や、ルシアン様は慌てて言った。
何でもないのなら言うんじゃないわよ。
ルシアン様はかすかに震えていた。
まだ熱があるのかしら。
うつしたら八つ裂きにしてやる。
でも、まぁ、いいでしょう。
いつものプリティフェイスとプリティボイスで話してやることにした。
「ルシアン様ぁ、早く看板出してぇ」
「あ、ああ、もちろんだ。……おい、お前ら、さっさと運び出せ!」
ルシアン様に命じて、これまたルシアン様に作らせた看板を掲げる。
"言霊館 ver.シルヴィー”。
お義姉様の痕跡はもうどこにもない。
以前の"言霊館”には、やたらとお義姉様を慕う客が訪れた。
子どもから大人までたくさんの客が。
自分ばかりちやほやされてずるいじゃないの。
でも、もうお義姉様はいない。
これからは、あたくしが代わりにちやほやされてあげます。
お店に入り、お義姉様の席に座る。
早く侯爵とか偉い客が来ないかなぁ~。
「なぁ、シルヴィー。俺はもう帰ってもいいか? ここにいても何もやることはないよな」
「うふふぅ、誰が帰っていいと言ったのでしょうかぁ。あたくしの隣にいなさぁい。変な客が来たら追い出してもらうんですからぁ」
なんでそんなに帰りたそうにするのよ。
婚約者の隣にいるのが嬉しくないの?
ルシアン様には用心棒も努めてもらう必要があるんだから。
心の中で毒づいていたら、"言霊館 ver.シルヴィー”の扉が開かれた。
カランカランとドアベルが鳴る。
さっそく客が来た!
モンディエール侯爵? それとも公爵家?
湧き立つ思いとは裏腹に、客を見ると急激にテンションが下がった。
「こんにちは~。……ねえ、おばあちゃん、どうして看板が変わっていたのかなぁ?」
「どうしてだろうねぇ。シルヴィーなんて聞いたことがないよ」
「変な名前だね」
あたくしの名前よ。
入ってきた客は二人。
茶髪の女児と白髪のおばあさん。
女児は五歳くらいで、おばあさんは八十歳手前かしら。
着ている服も靴もボロボロで、見るからに庶民だとわかる。
看板に貴族御用達と書くのを忘れていたわ。
庶民なんかの相手をしたところで、あたくしには何のメリットもない。
まさしく、時間の無駄だ。
自室で髪をセットしながらも笑みが零れてしまう。
一週間ほどあたくしを苦しめていた風邪が治った。
熱も下がったし喉や頭の痛みも消えている。
あの後、モンディエール侯爵から見舞いの果物が届いたけど、あたくしが全部食ってやった。
最高においしかったわ。
ルシアン様のせいで余計な時間がかかってしまったわね。
でも、体調さえ戻ればもう大丈夫。
今日から新生"言霊館”の始まりよ。
色々と運ぶ物があるので、ルシアン様も呼んでいた。
もうじき来るはず……。
"言霊館”の前で待っていたら、やがてダングレーム家の馬車が止まった。
ルシアン様は降りるや否や、開口一番に告げる。
「シ、シルヴィー、すまねえ。今日は用事があってだな。すぐに帰らなきゃいけねえんだ」
「……は?」
憎悪を込めた眼で睨む。
話が違うじゃないの。
「い、いや、大丈夫だっ。何でもないっ」
睨むや否や、ルシアン様は慌てて言った。
何でもないのなら言うんじゃないわよ。
ルシアン様はかすかに震えていた。
まだ熱があるのかしら。
うつしたら八つ裂きにしてやる。
でも、まぁ、いいでしょう。
いつものプリティフェイスとプリティボイスで話してやることにした。
「ルシアン様ぁ、早く看板出してぇ」
「あ、ああ、もちろんだ。……おい、お前ら、さっさと運び出せ!」
ルシアン様に命じて、これまたルシアン様に作らせた看板を掲げる。
"言霊館 ver.シルヴィー”。
お義姉様の痕跡はもうどこにもない。
以前の"言霊館”には、やたらとお義姉様を慕う客が訪れた。
子どもから大人までたくさんの客が。
自分ばかりちやほやされてずるいじゃないの。
でも、もうお義姉様はいない。
これからは、あたくしが代わりにちやほやされてあげます。
お店に入り、お義姉様の席に座る。
早く侯爵とか偉い客が来ないかなぁ~。
「なぁ、シルヴィー。俺はもう帰ってもいいか? ここにいても何もやることはないよな」
「うふふぅ、誰が帰っていいと言ったのでしょうかぁ。あたくしの隣にいなさぁい。変な客が来たら追い出してもらうんですからぁ」
なんでそんなに帰りたそうにするのよ。
婚約者の隣にいるのが嬉しくないの?
ルシアン様には用心棒も努めてもらう必要があるんだから。
心の中で毒づいていたら、"言霊館 ver.シルヴィー”の扉が開かれた。
カランカランとドアベルが鳴る。
さっそく客が来た!
モンディエール侯爵? それとも公爵家?
湧き立つ思いとは裏腹に、客を見ると急激にテンションが下がった。
「こんにちは~。……ねえ、おばあちゃん、どうして看板が変わっていたのかなぁ?」
「どうしてだろうねぇ。シルヴィーなんて聞いたことがないよ」
「変な名前だね」
あたくしの名前よ。
入ってきた客は二人。
茶髪の女児と白髪のおばあさん。
女児は五歳くらいで、おばあさんは八十歳手前かしら。
着ている服も靴もボロボロで、見るからに庶民だとわかる。
看板に貴族御用達と書くのを忘れていたわ。
庶民なんかの相手をしたところで、あたくしには何のメリットもない。
まさしく、時間の無駄だ。
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