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第16話:フェンリルさんと詩①

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『【言霊】スキル……?』
「はい、私は言葉に魔力を乗せることができるのです」

 ガルシオさんにもスキルについて説明する。
 ルイ様と同じように、興味深そうに聞いてくれた。

『へぇ、珍しいスキルだなぁ……』
「私の力でガルシオさんの病気を治せるかもしれません。……どうでしょうか、ルイ様。私に【言霊】スキルを使わせてくれませんか?」

 そうお願いすると、ルイ様は何やら考えていた。
 しばし考えた後、空中に魔法文字が書かれる。

〔気持ちは嬉しい。だが、同時に危険もある。君の【言霊】は言葉に魔力を乗せると聞いた。ガルシオの病状を考えると、相当の魔力を消費するだろう。君が倒れてしまっては元も子もない〕

 ルイ様の気遣いが心に沁みる。
 でも、それに甘えるわけにはいかなかった。
 私は医術師や薬師ではないけれど、ガルシオさんの具合の悪さはよくわかる。
 だって……すごく辛そうだから。

「……ありがとうございます、ルイ様。 ですが……お願いです。私にガルシオさんを癒させてください。このまま見過ごすなんて、絶対にできません。少しでも良くなる可能性があるなら、精一杯頑張りたいのです」

 自分の力で困っている人が助かるかもしれないのなら、正面から挑むべきだ。
 それに、【言霊】スキルを授かってからの二年間、力を使っても倒れたりしたことは一度もなかった。
 今日はまだスキルを使っていないし、体力も魔力も充実している。
 その話もルイ様にすると、無表情にほんのわずかな笑みが浮かんだ。

〔……わかった。頼む、彼を救ってほしい〕
「ありがとうございます……ルイ様。このポーラ、全身全霊で誌を書かせていただきます。……では、お疲れのところ悪いですが、ガルシオさんの話を聞かせてくれませんか? 相手について知れば知るほど、【言霊】スキルは強くなるのです」

 私がそう言うと、ガルシオさんは顎に前足を当て考える。

『俺とルイが出会ったのは……今から十年前だったかな。……うん、たしかそうだ』
〔もうそんなに経つのか。時の流れは早いものだ〕
『ダンジョンの最深部で強力な魔物の群れに襲われ死にそうになっていたとき、助けてくれたのがルイだ……』

 ルイ様とガルシオさんは、二人の出会いや十年の日々を話してくれる。
 お屋敷での日々を話しているときだけは、ガルシオさんは元気に見えた。
 フェンリルの伝承や本で読んだことを思い出しながら、辞書をめくり、言葉の海から一つずつ言葉を掬い取る。
 死の淵に追い込まれてしまったガルシオさんを救うために……。
 五分ほど羽ペンを走らせ、詩が完成した。

「お待たせしてすみません。詩ができました。それでは、読ませていただきますね」
『詩を聞くなんて久しぶりだよ……楽しみだ』

 深く息を吸い、願いを込めて詩を詠う。
 ガルシオさんが元気になってくれますようにと……。
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