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第12話:風邪ひいた(Side:シルヴィー①)③

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「あたくしはポーラの義妹、シルヴィーでございます。お義姉様以上の言葉にまつわるスキルを持っております。どうでしょうか、あたくしに詩を……」
「いや、別に結構。ポーラ嬢がいいのだ」

 即答で断られた。
 あたくしがむかついている間も、モンディエール侯爵はお義姉様の話をする。
 それはそれは晴れやかな笑顔で。

「ポーラ嬢は本当に素晴らしい。彼女のおかげで私は快適な暮らしを送れているようなものだ。王様にもお話ししたら、いずれご自身の持病も癒やしてほしいとおっしゃっていた」

 お義姉様の話をするときだけは嬉しそうだ。
 モンディエール侯爵も令息も。
 というか、王様にも話したってなに?
 男爵家が話題にのぼるなんてあり得ないでしょうが。
 自分との扱いの差を見せつけられているようで、大変にイライラする。
 ので、もう会話を終わらすことにした。

「お義姉様は体調を崩しておりますわ。今日はとても詩の製作ができないそうです」

 あんたらの大事なお義姉様はもういませんよ~だ。
 追い出したことは伝えないでやる。
 こうなったら出直しよ。
 風邪を治してから、侯爵には会いに行けばいいわ。
 そして、体調不良と聞くと、モンディエール侯爵と令息は初めて見るような不安そうな顔になった。
 ……この反応もまたイライラするわね。

「なに、体調不良なのか? ……それは心配だな。後で見舞いの品を持ってこさせよう。では、我々はこれで失礼する。ポーラ嬢によろしく言っておいてくれたまえ。息子を紹介したかったが、体調不良ではむしろ迷惑だろう」
「あっ、ちょっ!」

 追いかける間もなく、モンディエール侯爵たちはさっさと"言霊館”から出て行く。
 窓から外の様子を窺うと、二人が残念そうに帰るのが見えた。
 ふ、ふざけんじゃないわよ。

 ――お義姉様に息子を紹介ですって!?

 あたくしの実力があれば、確実にお義姉様以上の詩を書けたはず。
 そうすれば、侯爵からよい評価をもらい、侯爵令息に乗り換えることだってできたかもしれないのに。
 風邪さえひいていなければ……。
 怒りとやるせなさを抱き、自室に戻る。
 ベッドの隅で座るルシアン様を見ると、じわじわと今までの怒りがさらに強くなった。

「あんたのせいよ! あんたが風邪をうつしてから、チャンスを無駄にしちゃったじゃない!」

 耐えかねて叫んだ。
 全てはこの男、ルシアン・ダングレームが悪いのだ。
 ルシアン様はというと、あたくしの糾弾に反抗してきた。

「はぁ!? 知らねえよ! 俺は関係ねえだろうが! なんでもかんでも人のせいにするな!」
「いたっ!」

 あろうことか、バシッと頭を叩かれた。
 腹の底からマグマのように怒りがわき上がる。
 ……もう我慢ならん。

「あたくしの麗しい顔に傷がついたらどうすんだよ、クソ野郎!」
「ぐあああっ!」

 ルシアン様の腹に渾身の右ストレートをかまし、うずくまってがら空きの首に勢いよく肘を叩き落とした。
 二連撃を食らい、ルシアン様はぐったりと床に崩れ落ちる。
 はい、あたくしの勝ち。
 舐めんじゃないわよ、まったく。
 風邪をひいていようが、これくらいは造作もないわ。
 ルシアン様を窓から外に捨て、ベッドに潜り込む。

 ――今に見てなさい、お義姉様。あんたの名前が残っているのもあと数日だわ。

 風邪が治ったら本格的に"言霊館 ver.シルヴィー”を始動させる。
 お義姉様の痕跡など、跡形もなく消し去ってやるんだから。
 ゴホッ、ゴホッ。
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