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第11話:風邪ひいた(Side:シルヴィー①)②

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「失礼いたします、シルヴィー様」
「なに! 今大事な話を……!」
「"言霊館”にモンディエール侯爵様がお見えになられていらっしゃいますが……」
「なん……ですって……?」
 
 モンディエール侯爵。
 六十歳ほどのダンディーな男性で、王国を代表する大変に高貴な貴族だ。
 国内で十個ほどの農園を経営し、金や銀が産出される鉱山を三個も所持する。
 伯爵家など比べものにならない……。
 予期せぬ来訪者に驚く間も、使用人は扉の隙間から話を続ける。

「以前からポーラ様と懇意にされていたようで、本日も詩の製作を頼みに来たとのことです。毎年、季節の変わり目になると眼が痛くなり、ポーラ様の詩で症状を和らげていたとおっしゃっています」

 モンディエール侯爵は……"言霊館”の常連だったのだ。
 お義姉様めぇぇ、そんな大事なことを言わずに出て行くなんて。
 重要な客の情報は、事前に伝えておくべきでしょう。
 迷惑なお義姉様ね。
 おまけに、新生"言霊館”の記念すべき最初の客が、お義姉様の名声で訪れたようなものじゃないの。
 腹立たしい……ちょっと待ちなさい。
 お義姉様への憎しみを募らせたとき、とある可能性に気づいた。

 ――これはチャンスなのでは? あたくしが侯爵夫人になれるチャンス……。

 まさしく。
 これは天啓なのだ。
 あたくしに侯爵夫人になれという……。
 さらに、侯爵令息は誰もが羨む美男子だ。

「お義姉様の代わりにあたくしが詩を書くわぁ。モンディエール侯爵には少し待つよう伝えなさぁい」

 ケープだけ羽織って"言霊館”に急ぐ。
 頭が割れるように痛むも、侯爵夫人という肩書きを思えばこれくらい大した痛みではなかった。
 離れの"言霊館”に裏口から入る。
 そっと店内を覗くといた。
 灰色のオールバックの男性――モンディエール侯爵が。
 しかも……。
 
 ――令息までいるじゃないの!

 父親より淡い灰色の髪の美男子。
 ルシアン様とは正反対の優男だ。
 持ってきたポーチから化粧道具を取り出し、さっと身だしなみを整える。
 よし、これで侯爵令息のハートを掴むわよ。
 カウンターから出て、二人の前に姿を現す。

「こんにちはぁ、モンディエール侯爵ぅ。ようこそおいでくださいましたぁ」
「き、君は誰だね? オリオール家の者か? ポーラ嬢はいないのかね?」

 出た瞬間、モンディエール侯爵は顔が引きつった。
 いや、令息もそうだ。
 ……この反応はなに?
 不快な感情を押し殺し、とっておきのプリティフェイスとプリティボイスを心がける。
 大事なのはこれからよ。
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