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第10話:風邪ひいた(Side:シルヴィー①)①

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「ゲホッ、ゴホッ。喉が痛いし頭が痛いぃ~」

 お義姉様を追い出してから数日後。
 あたくしは激しい風邪をひいた。
 今はオリオール家の一階にある自室で寝ている。
 喉は水も飲めないほどヒリヒリと痛く、頭は寝返りを打つだけガンガンに痛い。
 熱も高くて意識はぼんやりするばかり。
 こんなにひどい風邪は久しぶりだ。
 今まではどんなに夜更かししても、夜会で遊び回っても、一度も体調を崩さなかったのに……。
 さっそく、新生"言霊館”をスタートさせるつもりが台無しだわ。

「シルヴィーお嬢様、ルシアン様がいらっしゃいました」

 部屋の扉が叩かれるとともに、使用人の声が聞こえた。
 風邪をひいてから、ルシアン様へ見舞いに来いと出した手紙が届いたらしい。
 痛む喉を耐え、数々の男を虜にしたプリティボイスを出す。

「早くご案内してぇ」

 扉が開き、あたくしの自慢の婚約者が現れた。

「シ、シルヴィー……風邪をひいたんだって? どうだ、具合は……」

 名家の跡取りで、ワイルドな見た目と物言いが力強い男性だ。
 お姉様から奪った優越感も相まって、一瞬風邪の症状が消えたような気がする。
 だけど、ルシアン様の全身が明らかになるにつれ、あたくしの心は強い衝撃に襲われた。

「ル、ルシアン様、その格好はどうされたのですかっ」

 ボロボロもボロボロ。
 眼の周りには青タンが浮き出て、腕や足は傷だらけ、高価な服も裾が擦り切れている。
 まるで、盗賊や山賊に襲われた直後のようなひどい有様だ。
 見たこともないくらいの疲れ果てた様子に、思わず言葉を失った。

「遠征に出たら、湖のほとりで魔物に襲われたんだよ……。あの場所では、今まで一度も襲われたことはなかったのに……」

 あたくしが風邪をひいてから程なくして、ルシアン様はダングルーム家の生業である魔物狩りの遠征に向かった。
 そういえば、ちょうど今日が帰還の日だった。

「魔物ですかぁ……。あたくしのお見舞いは、少しお休みになられてからでよかったですのにぃ……」
「着替える気力もなかったんだよ……」

 ルシアン様は疲れた様子であたくしのベッドの端に座る。
 ちょ、ちょっと、どきなさいよ。
 汚れるでしょうが。

「ルシアン様ぁ、そちらの椅子の方が座りやすいと思いますわぁ」
「おまけになんだか熱っぽいな。魔物の毒を食らったのかもしれん。なぁ、薬ないか?」

 ルシアン様はあたくしの声など聞こえないかのように、額に手を当て深刻そうな顔で言う。 ベッドには汚れがつき、皺が寄り、風邪とは別に最悪の気分となった。
 疲れた様子を見ていると、ふと気づく。
 もしかして……あたくしの風邪はルシアン様にうつされたんじゃないの?
 そうよ、そうに決まっている。
 きっと、ルシアン様は遠征に行く前に風邪をひいていて、あたくしにうつしたのだ。
 怒りが湧いたとき、扉がコツコツと叩かれた。
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