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第5話:お屋敷②
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「どうぞ、ポーラ様。遠路はるばるお疲れ様でございました。ご主人様がいらっしゃるまで、応接室の方でお待ちください」
「は、はいっ」
後に続き、お屋敷の中を進む。
辺境伯なんて偉い人の家に来たことなどなく、床以外の物を触らないようにするので精一杯だった。
壁には色んな絵が掲げられ、調度品が飾られる。
ロコルルの街を描いた風景画や女神様を讃える絵……、金の装飾が施された陶磁器などなど。
どれもこれも高そうな物ばかり。
息が詰まりそうになりながら歩いていると、重厚な樫の扉に着いた。
エヴァちゃんが開けると、オリオール家とは比べ物にならない豪華な部屋が現れる。
「ポーラ様はこちらのソファでお待ちください。今お茶をご用意いたしますね。ご主人様にもお話ししてまいります」
「わ、わかりました。すみません、どうかお気になさらず……」
断ったけど、エヴァちゃんはお茶を持ってきてくれた。
彼女の隣には小さな少年の執事もいる。
くるっとした茶色の髪に、丸っこい茶色の目が女の子のように可愛い。
「お待たせいたしました。お茶でございます。ご主人様はもう少しでいらっしゃるとのことでした」
「初めまして、ポーラ様。僕は執事のアレンと申します。お菓子をお持ちいたしました」
「ありがとうございます。ポーラ・オリオールです」
「ポーラ様と一緒に働けるのを、僕も祈っております」
少年執事はアレン君と言うらしい。
まだ子どものに働いていて偉いなぁ。
お茶を出したりお菓子を用意してくれる彼女らを見ていると、ふと面影が重なった。
「お二人はよく似ていますね」
「わたしたちは姉弟なんです。わたしが十六歳で、アレンは十二歳です」
「姉さんにはこき使われていますよ。こう見えて人使いが荒いんです」
アレン君が笑いながら話すと、後ろにいるエヴァちゃんの表情が厳しくなった。
なんと、実の姉弟だったのか。
どうりで似ているわけだ。
あれこれ準備してくれる二人を見ていると、自然と伝えたくなった。
「あの……エヴァちゃん、アレン君。どうか、もっと気楽に話してくれませんか? もう貴族でもなんでもないし、二人とは友達になりたいんです。」
まだ出会って間もないものの、ルシアン様やシルヴィーより親しく感じられたのだ。
私が言うと、二人はしばしポカンとしていたけど、やがて笑顔で話してくれた。
「……うん、ありがとう。わたしもポーラちゃんとは友達になりたい。その代わり、ポーラちゃんも普通に話してね。わたしのことも友達みたいに呼んで」
「それでは、僕はポーラさんと呼ばせてもらいます」
二人と一緒に微笑む。
エヴァちゃんは不思議そうな顔で私に尋ねた。
「名前を聞いたときから気になっていたんだけど、苗字があるってことは、ポーラちゃんは……もしかして貴族?」
「ええ、オリオール家は男爵よ」
「ポーラちゃんは貴族だったの! やっぱり! どうしよう、貴族の友達ができちゃった!」
「え……?」
突然、エヴァちゃんは叫んだ。
さっきまでの凛とした雰囲気は消え去り、頬に手を当てはわわ……と震えている。
驚いていると、アレン君がにこやかに告げた。
「驚かせてすみません。姉さんは“よそ行き”の顔を演じるのだけは得意なんです。これが普通です。僕たちは孤児院出身なので、貴族に憧れがあるのです」
「アレン、静かにしなさい」
一転して、エヴァちゃんはギッとアレン君を睨むけど、当のアレン君は怯えることなくニコニコと笑う。
何だかんだ、仲が良いんだろうなぁ。
二人を見ていると、自然と私の状況も話しておきたくなった。
「実は私……婚約破棄されちゃったの……」
「「え!?」」
「は、はいっ」
後に続き、お屋敷の中を進む。
辺境伯なんて偉い人の家に来たことなどなく、床以外の物を触らないようにするので精一杯だった。
壁には色んな絵が掲げられ、調度品が飾られる。
ロコルルの街を描いた風景画や女神様を讃える絵……、金の装飾が施された陶磁器などなど。
どれもこれも高そうな物ばかり。
息が詰まりそうになりながら歩いていると、重厚な樫の扉に着いた。
エヴァちゃんが開けると、オリオール家とは比べ物にならない豪華な部屋が現れる。
「ポーラ様はこちらのソファでお待ちください。今お茶をご用意いたしますね。ご主人様にもお話ししてまいります」
「わ、わかりました。すみません、どうかお気になさらず……」
断ったけど、エヴァちゃんはお茶を持ってきてくれた。
彼女の隣には小さな少年の執事もいる。
くるっとした茶色の髪に、丸っこい茶色の目が女の子のように可愛い。
「お待たせいたしました。お茶でございます。ご主人様はもう少しでいらっしゃるとのことでした」
「初めまして、ポーラ様。僕は執事のアレンと申します。お菓子をお持ちいたしました」
「ありがとうございます。ポーラ・オリオールです」
「ポーラ様と一緒に働けるのを、僕も祈っております」
少年執事はアレン君と言うらしい。
まだ子どものに働いていて偉いなぁ。
お茶を出したりお菓子を用意してくれる彼女らを見ていると、ふと面影が重なった。
「お二人はよく似ていますね」
「わたしたちは姉弟なんです。わたしが十六歳で、アレンは十二歳です」
「姉さんにはこき使われていますよ。こう見えて人使いが荒いんです」
アレン君が笑いながら話すと、後ろにいるエヴァちゃんの表情が厳しくなった。
なんと、実の姉弟だったのか。
どうりで似ているわけだ。
あれこれ準備してくれる二人を見ていると、自然と伝えたくなった。
「あの……エヴァちゃん、アレン君。どうか、もっと気楽に話してくれませんか? もう貴族でもなんでもないし、二人とは友達になりたいんです。」
まだ出会って間もないものの、ルシアン様やシルヴィーより親しく感じられたのだ。
私が言うと、二人はしばしポカンとしていたけど、やがて笑顔で話してくれた。
「……うん、ありがとう。わたしもポーラちゃんとは友達になりたい。その代わり、ポーラちゃんも普通に話してね。わたしのことも友達みたいに呼んで」
「それでは、僕はポーラさんと呼ばせてもらいます」
二人と一緒に微笑む。
エヴァちゃんは不思議そうな顔で私に尋ねた。
「名前を聞いたときから気になっていたんだけど、苗字があるってことは、ポーラちゃんは……もしかして貴族?」
「ええ、オリオール家は男爵よ」
「ポーラちゃんは貴族だったの! やっぱり! どうしよう、貴族の友達ができちゃった!」
「え……?」
突然、エヴァちゃんは叫んだ。
さっきまでの凛とした雰囲気は消え去り、頬に手を当てはわわ……と震えている。
驚いていると、アレン君がにこやかに告げた。
「驚かせてすみません。姉さんは“よそ行き”の顔を演じるのだけは得意なんです。これが普通です。僕たちは孤児院出身なので、貴族に憧れがあるのです」
「アレン、静かにしなさい」
一転して、エヴァちゃんはギッとアレン君を睨むけど、当のアレン君は怯えることなくニコニコと笑う。
何だかんだ、仲が良いんだろうなぁ。
二人を見ていると、自然と私の状況も話しておきたくなった。
「実は私……婚約破棄されちゃったの……」
「「え!?」」
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