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第33話:聖剣テイム

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 神剣に近づきながら思う。

 ――はたして、俺に触れるだろうか……。

 何人もの優秀な冒険者が、触ることすらできなかった“伝説の聖剣”だ。
 あのケビンさんでさえ無理だった。

 ――いや、自信を持て、アイト。俺ならできるはずだ。気持ちで負けてたら、その時点でダメだ。

 気持ちを強くして歩く。
 冒険者はみんな、じっと俺を見守った。
 森の中は張りつめた空気だ。
 天の神剣の前に着くと、その美しさに改めて目を奪われた。
 刀身は清廉潔白という言葉を体現したかのように純白で、柄の黄金は陽光に光り輝く。
 武器というよりは芸術品のごとく雰囲気から、持ち手は“選ばれる立場”なのだと伝わった。
 俺は目をつぶり深呼吸する。
 ……よし。
 静かに手を伸ばす。
 神剣は目の前にあるのに、手を伸ばすと遠ざかる錯覚があった。
 ……大丈夫だ。
 俺ならできる。
 手をさらに伸ばすと、黄金の柄に…………そっと指が当たった。
 緊張で心臓が拍動する。
 そのまま、ゆっくりと握り込むと、きちんと感触があった。
 俺は……天の神剣を触ることができた。

「や、やった! 触れた! 触れたよ、みんな!」

 俺はみんなの方を見る。
 ただ触れただけでも、大変に嬉しかったのだ。

〔マスター、やりましたね! お見事です!〕
〔さすが、私のアイトよ!〕

 コシーとエイメスの喜ぶ声が聞こえ、ストラ君たち冒険者のみんなも歓声を上げた。

「すげえ! 天の神剣を握っているぞ!」
「やっぱり、アイトさんが“選ばれし者”だったんですよ!」
「あなたが最高の冒険者です!」

 みんな自分のことのように喜んでくれる。
 嬉しいな。
 さて、聖剣はもう抜いちゃっていいのかな?
 地面から引き抜こうとした直後、俺の魔力が急速に吸い込まれていった。
 天の神剣にすごい勢いで魔力が注がれる。

 ――な、なんだ!? 魔力が勝手に……!

 俺の魔力を吸収するにつれ、天の神剣が輝きを増す。
 目の前に太陽があるかのように眩しくて、まともに見れないくらいだ。

〔マスター、どうしたんですか!?〕
〔アイト、何があったの!?〕
「わ、わからないんだ! 勝手に俺の魔力が……!」

 手を離そうとしても、なぜか柄に張り付いて取れない。
 何が起きているんだ……! と思ったとき、ボウンッ! と、白い煙がモクモクと広がった。
 この現象は前にも見たことがある。

 ――ま、まさか、これは……!

 そうだ、これはコシーやエイメスをテイムした時と一緒だ。
 俺は緊張して行く末を見守る。
 天の神剣の……テイム。
 少しずつ煙が消える。
 完全に消えると、目の前には……もの凄い美人が立っていた。
 腰くらいまである銀色の髪、スラリとした長身、切れ長の青い目、細長い手足。そして、かわいいというよりは、クールで凛とした雰囲気が漂う。

「おおおおお! 天の神剣が人間になったぞ!」
「こんなの見たことねえよ!」
「どうやったら、そんなことできるんですか!?」

 後方では、冒険者たちが大騒ぎする。
 天の神剣は全く動じず、俺に近寄った。

〔貴様がわらわの主か?〕

 俺のことを怖い目で見る。
 俺より背が高いので、上から睨まれている感じだ。

「え? 主?」
〔名は何というのだ?〕

 威圧感が強くて恐ろしい。
 ま、まさか、テイムされたくなかったのかな?
 少々不安になってしまう。

「ア、アイト・メニエンと言います」
〔わらわは、ミルギッカという名だ〕

 ミルギッカは俺のことを、頭の先からつま先まで舐めるように見た。
 まるで、武器屋で品定めされている剣になった気分だ。
 
「ミ、ミルギッカ、よろしくね」

 俺は握手しようと右手を出す。

〔……〕

 握手してくれないのか……。
 しかし、ミルギッカは手を出そうともしない。
 かなり無愛想な感じだ。
 差し出した右手の処理に困っていると、コシーとエイメスが走ってきた。
 ミルギッカは二人を見るや、ギロリと睨む。

〔貴様らはなんだ?〕
「ふ、二人とも俺の仲間だよ。コシーとエイメスね。な、仲良くしてくれると嬉しいなぁ」

 俺は慌てて紹介する。
 なんだか一触即発な雰囲気だから。

〔私はコシーと言います。私もマスターにテイムされたんです〕
〔エイメスよ。元Sランクダンジョン。あと言っとくけど、アイトは私の物だからね〕

 相変わらず、ミルギッカは機嫌が悪そうだ。
 怖い顔をしてはコシーたちを睨む。

「あ、あの、ミルギッカ……?」
〔ふんっ!〕

 彼女はプイッとそっぽを向いてしまった。

〔挨拶くらいしてくれても……〕
〔あんた、態度悪いわね〕

 な、なんか……コシーやエイメスの時と違うな。
 挨拶(……と言えるのだろうか)が終わったところで、冒険者たちも集まった。
 みんな、笑顔で俺を褒めてくれる。

「アイトさん、すごすぎます! まさか、“伝説の聖剣”をテイムするなんて!」
「俺、ギルドの連中に伝えるよ!」
「あなたみたいな人に出会えて、本当に良かったです!」

 少し話したけど、冒険者たちはみな、それぞれのギルドに帰るようだ。
 怪我も回復したので、自力で帰れると言っていた。
 みんな俺とコシー、エイメスにお礼を言い、手を振っては森の中に消える。
 最後に残ったのはストラ君たちで、彼らはガシッと力強い握手をしてくれた。

「アイトさん、本当にありがとうな!」
「またどこかで会いましょう! 今度、僕たちのギルドに遊びに来てください!」
「このご恩は一生忘れません!」

 ストラ君たちも、元気に彼らのギルドへ帰っていく。
 後ろ姿を見ながら思う。
 みんなを助けることができて本当によかった。

「……じゃあ、俺たちもギルドに戻ろうか。ケビンさん達に良い報告が出来そうだね」
〔ええ。でも、せっかくだから、ちょっと森を眺めてから帰りましょうよ〕
〔そうですね。こんなに大きな森はなかなかありません〕

 二人は大きな森に興味津々な様子だ。
 たしかに、これほどの大規模の森はなかなか見ない。

「それもそうか。じゃあ、ちょっとこの辺を見てから帰ろう」

 俺たちはこの辺りを観察してから帰ることにした。
 森へ向かって歩きだす。
 と、そこで、服の袖をグイッと何かに掴まれた。
 振り向くと、ミルギッカが俺の服を握っていた。

「ん? ど、どうした? 早く行かないと置いてかれちゃうよ」
〔……〕

 ミルギッカは離してくれない。
 コシーとエイメスは気づかず、森の中に行ってしまった。
 俺たちは二人っきりになる。

「ミルギッカ、早く手を……」
〔あんなヤツら、どうでもいいだろぉ~〕

 その途端、彼女の雰囲気が変わった。

「……え?」
〔貴様ぁ~、何で二人も女がいるのだぁ~。わらわという良い女がいるというのにぃ~〕

 ふにゃふにゃとまとわりつく。
 俺に。
 何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

「へあ?」
〔撫でてくれなきゃ許さんぞぉ~〕

 ミルギッカはしきりに頭を俺に擦りつけてくる。

「え? ちょ、ちょっと、ミルギッカ?」

 さっきまでと打って変わって、温和な雰囲気になっているのだが。
 目つきも穏やかになり、とても笑顔。

〔あんなヤツら放っておいて、先に帰るぞぉ~〕
「いや、ちょっ」

 ミ、ミルギッカは、いったいどうしたんだ?
 傍目から見ると、ラブラブの恋人みたいだ。
 周りには誰もいないけど、恥ずかしくてしょうがない。
 何が起きているのか不明なものの、俺はホッと安心する。

 ――でも、エイメスがいなくて良かった……。もしいたら、どうなることやら……。

 もちろん、彼女の目から逃げられるわけはなかった。
 知らないうちに、エイメスが目の前にいる。
 その目は深淵のごとし暗かった。
 さ、さっきまで、向こうにいたのに!

〔……ちょっと、あんた。私のアイトに、何やってるの……?〕

 例のごとく、エイメスの身体から激しい稲妻が迸る。

〔なんだ、貴様は。わらわに勝てると思っているのか?〕

 エイメスを見た瞬間、ミルギッカは元のおっかない彼女に戻ってしまった。
 ……これはまずいよ?
 かつてない戦争が始まりそうだ。
 コシーが大急ぎで走って戻る。

〔ちょ、ちょっと、二人ともこんなところでやめてください!〕
「森が壊滅しちゃうから!」

 俺も必死に二人をなだめる。
 彼女らが騒ぐ中、ぼんやりと頭の中で考えた。

 ――も、もしかして、彼女はクーデレ……。
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