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第3話:小さな仲間

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「ま、まずい! グレートウルフだ!」

 俺たちの前に現れたのはとても大柄な狼型のモンスター、グレートウルフ。
 その身体は灰色の丈夫な体毛に包まれ、最低でもBランクの武器でないと傷一つつかない。
 コシーはうろたえることもなく、まるで犬や猫を見るような落ち着いた様子だ。

〔マスター、グレートウルフとはどんなモンスターでしょうか?〕
「強力なAランクモンスターだよ!」

 こいつは強靭な爪や牙の攻撃だけでなく、炎系の魔法も使って攻撃する。
 接近戦も遠距離戦も強い厄介な相手だ。
 ボーランたちでさえ、全員がかりでないと倒すのに苦労するはずだ。
 それなのに、コシーは穏やかに笑う。

〔フフフ、かわいいワンチャンですね〕
「ワ、ワンチャンって! 早く逃げないと!」

 いくらコシーが強くても、相手はAランクモンスターだ。
 その強さはスライムの比ではない。
 数ではこちらが有利だが、ましてや俺はEランク冒険者だ。
 実質一対一じゃないか。
 グレートウルフは咆哮を上げる。
 俺たちを見て警戒しているのだ。
 魔力を溜めて、まずは遠距離攻撃を仕掛けてくる気だな。
 ランクが上のモンスターほど、警戒心が強くてずる賢い。

「コ、コシー! 今はとにかく逃げよう! ケガでもしたら大変だ!」

 彼女は石でできている。
 とは言え、こんなか弱そうな少女の身が心配だ。
 身体だって俺の半分くらいしかないし。

〔やはり、マスターはお優しい方なんですね。そんな方と出会えて私は嬉しいです。でも、あんなモンスターなんかマスターの敵ではありません。私に魔力を注いでみてください〕

 コシーは逃げようせず、それどころか俺の手を掴んで離さなかった。
 俺の目を真っ直ぐに見る。
 真摯な気持ちが伝わり、彼女を信じようと思った。

「よし、わかった!」

 俺はコシーの手を握り返し、力強く魔力を込める。
 白っぽいオーラのような空気が彼女の体を包んだ。
 魔力を注ぐにつれ、コシーはぐんぐん大きくなる。
 あっという間に俺とほぼ同じ大きさになった。

「ええ!? 大きくなった!?」
〔私の身体はマスターの魔力に呼応して大きさが変わるのです。ちょっと待っててください。すぐにあの行儀の悪いワンチャンを倒しちゃいますから〕
「な、なるほど……」

 そんな能力があったとは。
 コシーは剣を抜き、グレートウルフを真正面から見据える。

『ウガァァッ!』

 グレートウルフが何発もの火球を吐き出す。
 当たったら最後、一瞬で黒焦げになってしまう火力を誇る攻撃だ。

「コシー、あれは《ファイヤーボールショット》だ! 当たると身体の深部まで焼かれるぞ!」
〔問題ありません。マスターには傷一つ、つけさせませんよ!〕

 すぐさまコシーが駆け出し、《ファイヤーボールショット》を斬った。
 目にもとまらぬ速さだ。
 さらには斬られた火球が、みるみるうちに彼女の剣へと吸い込まれていった。
 す、すげえ。

『ガ……?』

 予想だにしなかったのだろう、グレートウルフはひるんでいる。
 その隙を逃さないよう、コシーは素早く間合いに斬り込んだ。

〔行儀の悪さを反省しなさい! 《ファイヤーソード》!〕

 コシーの剣が炎をまとい、剣全体がメラメラと激しく燃え盛った。
 そうか、吸収した《ファイヤーボールショット》を剣に宿したのか。
 下から薙ぎ払うようにコシーが剣を振るうと、グレートウルフの首が吹っ飛んだ。

『ギャアアッ!』

 断末魔の叫びを上げ、狼型のモンスターは崩れ落ちる。
 たったの一太刀でグレートウルフを斬り倒してしまった。
 こいつを一人で倒せる冒険者なんてそうそういないはずだ。
 コシーの実力を目の当たりにした気分だった。
 彼女はパンパンと、服(石でできた)についたほこりを払う。
 その様子を見てハッとした。
 俺は急いで駆け寄る。

「コシー、ケガはないか? 一応、Dランクのポーションだけは持っているけど」

 ポケットから小瓶を取り出す。
 ボーランたちにほとんどの荷物を取られはしたが、このポーションだけは見つからなかったのだ。
 石の身体に効くかはわからないけど、怪我をしているのなら使ってほしかった。
 差し出したポーションを見ると、コシーはフッと朗らかに微笑んだ。

〔ええ、大丈夫です。マスターは本当にお優しいですね。……さてと、そろそろ時間がまいりました〕
「え、時間? って、うわっ」

 瞬く間にコシーが縮む。
 十秒も経たずに、元の小石ほどの大きさになってしまった。
 俺と同じくらいの身長だったのが、今やすっかり手の平サイズだ。

〔私はマスターが注いでくれた魔力の量によって、大きさと強さが変わるのです。注いでくれた魔力が多いほど、大きく強くなります。魔力が切れると元の大きさに戻ります〕
「な、なるほど」
〔見たところ、先ほど倒したワンチャンはAランクの強さはあると思います。つまり、マスターの注いでくれた魔力で、私もAランク相当の力を出せたのです〕
「そうなのか? でも、ただ魔力を込めただけなんだが」

 夢中だったとは言え、自分の魔力を全て使い切った感覚はない。
 それほど魔力を使ったら体力が切れてまともに動けなくなる。
 Aランク相当なんて、ボーランたちと同じレベルの強さじゃないか。
 なんか強くなった気分になってしまった。

〔マスター、そろそろ冒険者ギルドへ帰りましょう。そのワンチャンの魔石や素材を持っていくと報酬が貰えるのではないでしょうか?〕
「そうだけど、コシーはどうして冒険者ギルドなんて知っているの?」

 俺はしゃがみ込んで聞く。
 小さくなった彼女と目線を合わせるのは微笑ましかった。

〔フフフ、私はマスターのことなら大体知っていますよ。マスターの魔力から生まれましたからね〕
「へぇ~」

 コシーはニッコリと笑う。
 さっきまでの凛とした雰囲気は消えており、すっかり可憐な少女といった感じだ。
 俺のことなら大体……。
 そう思った瞬間、背筋がひんやりした。
 まさか、俺の少年チックな趣味や寝相の悪さまで知っているんじゃ……。
 頭の中でぐるぐる考えていたらコシーの言葉で現実に戻った。

〔ところでマスター、お願いがあります〕
「うん、何でもどうぞ」
〔私をマスターの胸ポケットに入れてください〕
「胸ポケット? ……ああ、移動するってことね。もちろんいいいよ」

 俺はコシーを手の平に乗せ、そっと胸ポケットに入れた。

「どうかな?」
〔いやぁ、落ち着きます。最高の気分ですね〕

 コシーは嬉しそうな顔で、しきりに俺の服の匂いを嗅いでいた。
 ……そんなに匂うのだろうか。
 帰ったら入念に洗濯しようと決意し立ち上がる。

「じゃ、帰ろうか」
〔はい〕

 何はともあれ、俺は新しくできた不思議な仲間とギルドへの帰路に就く。
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