24 / 25
第24話:歓喜する王国
しおりを挟む
その後コルフォルスの全快を待って、守護結界に魔力を注入する日がきた。
私は今、地下の大聖堂にいる。
周りには王様、王妃様、そしてアーベル様がいた。
コルフォルスに初めて会った日と、同じ面々だ。
「では、コルフォルス。頼むぞ」
「承知しましたですぞ。たしか、王様方も見るのは初めてでしたな。少々眩しいかもしれませんが、どうか我慢くださいませ」
王様が言うと、コルフォルスは大聖堂の奥にある祭壇の前に向かう。
――私も結界に魔力を注ぐなんて見たことないわ。いったいどうなるのかしら。
「アーベル様、こんなところを見るのは初めてです」
「実は僕もなんだよ、ロミリア。大丈夫だとは思うけど、念のため僕の後ろに隠れてて」
アーベル様は自分の背中に私を隠してくれる。
後ろからみると、アーベル様の背中は思ったより大きかった。
それほど背が高いわけではないけれど、とてもたくましく感じる。
やがて、コルフォルスは祭壇の前に着くと、静かに呪文を唱え始めた。
「<大地の神よ……大空の神よ……そして古の精霊たちよ……、我らがハイデルベルクの民と土地とを守るため、力を貸したまえ……>」
呪文の詠唱が終わると、コルフォルスの体が光り始める。
そして、その光が徐々に祭壇に吸い込まれていった。
だんだんと祭壇が眩いばかりに光り輝いてく。
「くっ、眩しいな。皆の者大丈夫か!?」
「私は大丈夫ですわ、アーベル、ロミリアちゃんは大丈夫!?」
王様と王妃様も目に手をやっている。
「ロミリアはしっかり守ってますよ! お父上、お母上!」
「は、はい、私は大丈夫です!」
やがて、祭壇がその形すら見えないくらいに輝いた。
と思うと、突然その光が消えてしまった。
――あれ? あんなに光ってたのに消えちゃった。どうしたん……きゃあっ。
次の瞬間にとても大きな音がした。
びっくりして、私は思わず目をつぶってしまう。
「大丈夫だよ、ロミリア。目を開けてごらん。すごくきれいだよ」
アーベル様に言われ、こわごわと目を開ける。
……なんと、壁面に施されている金細工がこうこうと煌めいていた。
「き……きれい……」
無数の金細工は、まるで生きているように光り輝いている。
こんなに美しい光景を見るのは、生まれて初めてだ。
「これで終わりましたですぞ、王様」
コルフォルスがこちらに歩いてくる。
「いや、しかし……これは誠に見事だな」
「私もびっくりしちゃったわ。なんてきれいなんでしょう」
王様と王妃様も、この素晴らしい光景に見とれている。
「国境の守護結界も復活しとるはずです」
「よしっ、さっそく早馬を送って確認するぞ! 私は王妃と先に戻る! コルフォルス、アーベルたちを頼む!」
王様はそう言うと、王妃様と王宮に帰っていく。
二人を見送ると、コルフォルスが私を呼んだ。
「ロミリア、ちょっと来てくれんか」
――なんだろう?
近くに行くと、コルフォルスが私の手を握る。
そして、とても穏やかな声で言った。
「ロミリア……本当にありがとう。全部、そなたのおかげじゃよ」
数日後、国境の守護結界が無事に再生していると連絡が届いた。
むしろ、結界は以前よりずっと強くなっているそうだ。
私は今、王様たちと各地の報告を聞いている。
「王様、さらに良い知らせがあります!」
伝令が嬉しそうに言う。
笑みがこぼれるのを我慢しようとしているが、どうしても笑ってしまうみたいだ。
「なんだ、どうした? もっと真面目な顔をせんか、まったく」
「ゼノ帝国が宣戦布告を撤回しました!」
それを聞くと、王様は飛びあがって驚いた。
「なにぃ!? それは確かな情報か!?」
「はい、誠でございます! 使者より正式な文書も預かっております!」
伝令が一通の文書を王様に差し出す。
王様は受け取ると、すぐに中身を読み始めた。
少しずつ険しかった表情が緩んでいく。
「確かに、宣戦布告を撤回すると書いてある! 守護結界が強力になったのを見て、諦めたに違いない! やった、これで戦争は回避できたぞ!」
王様は両手を天高く上げて喜ぶ。
そして、私の方を見て言った。
「これも全てロミリア殿のおかげですぞ!そなたがコルフォルスの病気を治してくれたから、ゼノ帝国との戦争を回避できた!心から感謝しますぞ!」
それを聞くと、王妃様やアーベル様もしきりに私を褒め始めた。
「そうよ! ロミリアちゃんが王国を救ってくれたのよ! 本当にありがとう、ロミリアちゃん!」
「ロミリア! 君はなんてすごい人なんだ! ああ、もう何と言ったらいいのか! 君は女神だよ!」
周りの衛兵たちも私を褒め始める。
「ロミリア様はハイデルベルクの救世主様だな!」
「ああ、神よ。このような素晴らしいお方を授けてくださりありがとうございます」
「永遠にこの国で暮らしてくださいね!」
「私は一生あなたについていきます」
その場にいる全員が盛り上がり、だんだん収拾がつかなくなってくる。
感謝されるのはとても嬉しいが、私はさすがにちょっと恥ずかしくなってきた。
「も、もういいですから……」
「そうだ、この偉大なるロミリア様のお名前を天にまで届けようじゃないか!」
その場にいる誰かが言う。
「よし、皆でロミリア様を称えるぞ! それっ、ローミリア! ローミリア!」
それを合図に、全員が私の名前を叫び始めた。
アーベル様はもちろん、王様や王妃様まで一緒になって叫んでいた。
ローミリア! の声が王宮中に響き渡る。
「いや、あの……」
「「ローミリア!」」
「恥ずかしいですから……」
「「ローミリア!」」
しかし私の声はローミリア! にかき消され、もう誰の耳にも届かなかった。
こうなってしまったら、皆の興奮が落ち着くのを待つしかない。
「「ローミリア! ローミリア! ローミリア!」」
私は恥ずかしさに押しつぶされそうになりながら、いつまでも自分の名前を聞いていた。
私は今、地下の大聖堂にいる。
周りには王様、王妃様、そしてアーベル様がいた。
コルフォルスに初めて会った日と、同じ面々だ。
「では、コルフォルス。頼むぞ」
「承知しましたですぞ。たしか、王様方も見るのは初めてでしたな。少々眩しいかもしれませんが、どうか我慢くださいませ」
王様が言うと、コルフォルスは大聖堂の奥にある祭壇の前に向かう。
――私も結界に魔力を注ぐなんて見たことないわ。いったいどうなるのかしら。
「アーベル様、こんなところを見るのは初めてです」
「実は僕もなんだよ、ロミリア。大丈夫だとは思うけど、念のため僕の後ろに隠れてて」
アーベル様は自分の背中に私を隠してくれる。
後ろからみると、アーベル様の背中は思ったより大きかった。
それほど背が高いわけではないけれど、とてもたくましく感じる。
やがて、コルフォルスは祭壇の前に着くと、静かに呪文を唱え始めた。
「<大地の神よ……大空の神よ……そして古の精霊たちよ……、我らがハイデルベルクの民と土地とを守るため、力を貸したまえ……>」
呪文の詠唱が終わると、コルフォルスの体が光り始める。
そして、その光が徐々に祭壇に吸い込まれていった。
だんだんと祭壇が眩いばかりに光り輝いてく。
「くっ、眩しいな。皆の者大丈夫か!?」
「私は大丈夫ですわ、アーベル、ロミリアちゃんは大丈夫!?」
王様と王妃様も目に手をやっている。
「ロミリアはしっかり守ってますよ! お父上、お母上!」
「は、はい、私は大丈夫です!」
やがて、祭壇がその形すら見えないくらいに輝いた。
と思うと、突然その光が消えてしまった。
――あれ? あんなに光ってたのに消えちゃった。どうしたん……きゃあっ。
次の瞬間にとても大きな音がした。
びっくりして、私は思わず目をつぶってしまう。
「大丈夫だよ、ロミリア。目を開けてごらん。すごくきれいだよ」
アーベル様に言われ、こわごわと目を開ける。
……なんと、壁面に施されている金細工がこうこうと煌めいていた。
「き……きれい……」
無数の金細工は、まるで生きているように光り輝いている。
こんなに美しい光景を見るのは、生まれて初めてだ。
「これで終わりましたですぞ、王様」
コルフォルスがこちらに歩いてくる。
「いや、しかし……これは誠に見事だな」
「私もびっくりしちゃったわ。なんてきれいなんでしょう」
王様と王妃様も、この素晴らしい光景に見とれている。
「国境の守護結界も復活しとるはずです」
「よしっ、さっそく早馬を送って確認するぞ! 私は王妃と先に戻る! コルフォルス、アーベルたちを頼む!」
王様はそう言うと、王妃様と王宮に帰っていく。
二人を見送ると、コルフォルスが私を呼んだ。
「ロミリア、ちょっと来てくれんか」
――なんだろう?
近くに行くと、コルフォルスが私の手を握る。
そして、とても穏やかな声で言った。
「ロミリア……本当にありがとう。全部、そなたのおかげじゃよ」
数日後、国境の守護結界が無事に再生していると連絡が届いた。
むしろ、結界は以前よりずっと強くなっているそうだ。
私は今、王様たちと各地の報告を聞いている。
「王様、さらに良い知らせがあります!」
伝令が嬉しそうに言う。
笑みがこぼれるのを我慢しようとしているが、どうしても笑ってしまうみたいだ。
「なんだ、どうした? もっと真面目な顔をせんか、まったく」
「ゼノ帝国が宣戦布告を撤回しました!」
それを聞くと、王様は飛びあがって驚いた。
「なにぃ!? それは確かな情報か!?」
「はい、誠でございます! 使者より正式な文書も預かっております!」
伝令が一通の文書を王様に差し出す。
王様は受け取ると、すぐに中身を読み始めた。
少しずつ険しかった表情が緩んでいく。
「確かに、宣戦布告を撤回すると書いてある! 守護結界が強力になったのを見て、諦めたに違いない! やった、これで戦争は回避できたぞ!」
王様は両手を天高く上げて喜ぶ。
そして、私の方を見て言った。
「これも全てロミリア殿のおかげですぞ!そなたがコルフォルスの病気を治してくれたから、ゼノ帝国との戦争を回避できた!心から感謝しますぞ!」
それを聞くと、王妃様やアーベル様もしきりに私を褒め始めた。
「そうよ! ロミリアちゃんが王国を救ってくれたのよ! 本当にありがとう、ロミリアちゃん!」
「ロミリア! 君はなんてすごい人なんだ! ああ、もう何と言ったらいいのか! 君は女神だよ!」
周りの衛兵たちも私を褒め始める。
「ロミリア様はハイデルベルクの救世主様だな!」
「ああ、神よ。このような素晴らしいお方を授けてくださりありがとうございます」
「永遠にこの国で暮らしてくださいね!」
「私は一生あなたについていきます」
その場にいる全員が盛り上がり、だんだん収拾がつかなくなってくる。
感謝されるのはとても嬉しいが、私はさすがにちょっと恥ずかしくなってきた。
「も、もういいですから……」
「そうだ、この偉大なるロミリア様のお名前を天にまで届けようじゃないか!」
その場にいる誰かが言う。
「よし、皆でロミリア様を称えるぞ! それっ、ローミリア! ローミリア!」
それを合図に、全員が私の名前を叫び始めた。
アーベル様はもちろん、王様や王妃様まで一緒になって叫んでいた。
ローミリア! の声が王宮中に響き渡る。
「いや、あの……」
「「ローミリア!」」
「恥ずかしいですから……」
「「ローミリア!」」
しかし私の声はローミリア! にかき消され、もう誰の耳にも届かなかった。
こうなってしまったら、皆の興奮が落ち着くのを待つしかない。
「「ローミリア! ローミリア! ローミリア!」」
私は恥ずかしさに押しつぶされそうになりながら、いつまでも自分の名前を聞いていた。
32
お気に入りに追加
1,242
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる