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第5話:どこに(Side:アーベル②)
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僕はあの聖女に会うため、再び教会へ向かう。
その途中で街の人とすれ違ったので、彼女のことを聞いてみた。
「すみません、突然お尋ねして失礼ですが、あそこの教会にブロンズの髪と赤い目をした女性がいませんか?」
「ああ、いるよ。ロミリアお嬢様。気立てのいい娘さんでね。あんたも仕事探してもらうのかい? ガーデニー家の跡取り娘ってことで、ほんとによく……。あ、ちょっとあんた!」
――ガーデニー……。
その名前を聞いて、僕は急いで教会の前に行く。
昨夜は暗くて見えなかったが、入口に”聖ガーデニー教会”と書かれている。
なんということだ、やっぱりあの聖女は貴族の出身だった。
しかも、かのガーデニー家のご令嬢じゃないか。
ガーデニー家といえばアトリス王国内でも、名門中の超名門。
何しろ恵まれない者たちへの、長年の奉仕活動がとても高い評価を受けている。
いやまさか、跡取り令嬢ご本人が奉仕活動をしているとは思わなかった。
それならば、あの気品の高さもうなずけるものだ。
――今すぐ求婚しなければ
僕は勢いよく教会の扉を開けた。
「こんにちは!ロミリアさんはいらっしゃいますか?」
教会の中には人が全くおらず、しーん、としている。
「こんにちは……誰かいませんか?」
教会とはいえやけに静かな雰囲気で、自然と声が小さくなってしまう。
どうしたんだろう、と立っていると、人の話し声が奥の部屋から聞こえてきた。
声がする方へ静かに近づいていき、部屋の様子を伺う。
おそらくガーデニー家の使用人たちだろう、メイドや執事が集まって何かを話している。
彼女について情報が得られるかもしれない。
僕はひっそりと息をひそめ、聞き耳を立てた。
「……まさか、ルドウェン様に婚約を破棄されるなんて」
「本当にかわいそうなロミリアお嬢様……。しかも家から追い出されるなんて……」
メイドの何人かがしくしくと泣いている。
「ほんとにな、親がするようなことじゃねえよ。しかし、ダーリーお嬢様が婚約しちまうとはなぁ。言い方は悪いが、やっぱり裏でなんかやってたんだろうよ」
「エドワール様もデラベラ様もむしろ、ダーリーお嬢様を結婚させようとしてましたわ」
「ガーデニー家はデラベラ様が嫁いできてからおかしくなっちまった。あの欲深な性悪女め。その娘もそういうところだけはしっかり受け継ぎやがった」
やや年老いた執事が吐き捨てるに言った。
「ちょっと! さすがにその言い方は良くないわよ」
メイドの一人が小さな声で注意する。
「はっ、良くないも何も本当のことだ。あの女がガーデニー家の資産と地位目当てで結婚したのはサルでもわかるさ。それに俺はロミリアお嬢様こそ、本当の主だと思っている」
しかし、執事の言うことには全員うなずいていた。
「そうね、きっとあのお二人は王家と親戚になれればそれでよかったのよ。噂だとエドワール様はレベッカ様のことが嫌いだったそうじゃない。その娘のロミリアお嬢様も嫌いだったんだわ」
「レベッカ様も本当に良い方だった……。あの時はエドワール様もしっかりしていたのだが。いや、それもレベッカ様のおかげか」
「私たちはこれからどうなるんでしょう?」
若いメイドが心配そうに言った。
「ふんっ、もうガーデニー家はおしまいだ。俺は辞めるぞ」
そうだったのか、だんだん話がわかってきたぞ。
ルドウェンと言えば、アトリス王国の王子じゃないか。
彼女はルドウェン王子と婚約していたのか。
しかし、婚約破棄されおまけに身内にその婚約者を取られるなんて……。
悲しくて辛くてしょうがなかっただろうに。
泣いていたのはそれが理由だろう。
ん? ということは、彼女はそんな状況にも関わらず僕のことをあんなに温かく迎えてくれたのか。
とても常人にできることではない。
「なんてお優しい方だ……」
昨夜のロミリアの心境を思うと、くぅっと涙が出てしまった。
「ちょっと! 誰かそこにいるの!?」
――しまった! 今見つかってはまずい!
慌てて教会の外まで逃げてきた。
少し離れたところで、しばし今後の行動を考える。
――まずいな、急いでロミリアを探さないと……。それこそ、最悪の事態も考えなければならない。一度ガーデニー家に行ってみるか? いや、おそらくもう家を出ていったんだろう。しかし、家から追放とは! なんてひどいことをする親だ!
ロミリアを探すべく、僕は走り出した。
その途中で街の人とすれ違ったので、彼女のことを聞いてみた。
「すみません、突然お尋ねして失礼ですが、あそこの教会にブロンズの髪と赤い目をした女性がいませんか?」
「ああ、いるよ。ロミリアお嬢様。気立てのいい娘さんでね。あんたも仕事探してもらうのかい? ガーデニー家の跡取り娘ってことで、ほんとによく……。あ、ちょっとあんた!」
――ガーデニー……。
その名前を聞いて、僕は急いで教会の前に行く。
昨夜は暗くて見えなかったが、入口に”聖ガーデニー教会”と書かれている。
なんということだ、やっぱりあの聖女は貴族の出身だった。
しかも、かのガーデニー家のご令嬢じゃないか。
ガーデニー家といえばアトリス王国内でも、名門中の超名門。
何しろ恵まれない者たちへの、長年の奉仕活動がとても高い評価を受けている。
いやまさか、跡取り令嬢ご本人が奉仕活動をしているとは思わなかった。
それならば、あの気品の高さもうなずけるものだ。
――今すぐ求婚しなければ
僕は勢いよく教会の扉を開けた。
「こんにちは!ロミリアさんはいらっしゃいますか?」
教会の中には人が全くおらず、しーん、としている。
「こんにちは……誰かいませんか?」
教会とはいえやけに静かな雰囲気で、自然と声が小さくなってしまう。
どうしたんだろう、と立っていると、人の話し声が奥の部屋から聞こえてきた。
声がする方へ静かに近づいていき、部屋の様子を伺う。
おそらくガーデニー家の使用人たちだろう、メイドや執事が集まって何かを話している。
彼女について情報が得られるかもしれない。
僕はひっそりと息をひそめ、聞き耳を立てた。
「……まさか、ルドウェン様に婚約を破棄されるなんて」
「本当にかわいそうなロミリアお嬢様……。しかも家から追い出されるなんて……」
メイドの何人かがしくしくと泣いている。
「ほんとにな、親がするようなことじゃねえよ。しかし、ダーリーお嬢様が婚約しちまうとはなぁ。言い方は悪いが、やっぱり裏でなんかやってたんだろうよ」
「エドワール様もデラベラ様もむしろ、ダーリーお嬢様を結婚させようとしてましたわ」
「ガーデニー家はデラベラ様が嫁いできてからおかしくなっちまった。あの欲深な性悪女め。その娘もそういうところだけはしっかり受け継ぎやがった」
やや年老いた執事が吐き捨てるに言った。
「ちょっと! さすがにその言い方は良くないわよ」
メイドの一人が小さな声で注意する。
「はっ、良くないも何も本当のことだ。あの女がガーデニー家の資産と地位目当てで結婚したのはサルでもわかるさ。それに俺はロミリアお嬢様こそ、本当の主だと思っている」
しかし、執事の言うことには全員うなずいていた。
「そうね、きっとあのお二人は王家と親戚になれればそれでよかったのよ。噂だとエドワール様はレベッカ様のことが嫌いだったそうじゃない。その娘のロミリアお嬢様も嫌いだったんだわ」
「レベッカ様も本当に良い方だった……。あの時はエドワール様もしっかりしていたのだが。いや、それもレベッカ様のおかげか」
「私たちはこれからどうなるんでしょう?」
若いメイドが心配そうに言った。
「ふんっ、もうガーデニー家はおしまいだ。俺は辞めるぞ」
そうだったのか、だんだん話がわかってきたぞ。
ルドウェンと言えば、アトリス王国の王子じゃないか。
彼女はルドウェン王子と婚約していたのか。
しかし、婚約破棄されおまけに身内にその婚約者を取られるなんて……。
悲しくて辛くてしょうがなかっただろうに。
泣いていたのはそれが理由だろう。
ん? ということは、彼女はそんな状況にも関わらず僕のことをあんなに温かく迎えてくれたのか。
とても常人にできることではない。
「なんてお優しい方だ……」
昨夜のロミリアの心境を思うと、くぅっと涙が出てしまった。
「ちょっと! 誰かそこにいるの!?」
――しまった! 今見つかってはまずい!
慌てて教会の外まで逃げてきた。
少し離れたところで、しばし今後の行動を考える。
――まずいな、急いでロミリアを探さないと……。それこそ、最悪の事態も考えなければならない。一度ガーデニー家に行ってみるか? いや、おそらくもう家を出ていったんだろう。しかし、家から追放とは! なんてひどいことをする親だ!
ロミリアを探すべく、僕は走り出した。
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