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果物

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(あれからもう五年も経ったんだな……)



僕はのどかな田舎道をゆっくりと歩く……
都会育ちの僕には懐かしいという感情はないけれど、気持ちが落ち着くのは確かだ。
もしかしたら、僕はこの小さな町に住んでいたかもしれない。
そう…あんなことさえなかったら…



***



 「ねぇ、どう?
けっこう良い感じじゃない?」

 「う~ん…まぁ、確かにのんびりとは出来そうだけど……」

僕は、婚約者の咲子に連れられ、見知らぬ田舎町を訪れていた。
田舎で野菜作りをしてみたいだとか、落ち着いた雰囲気のカフェを開きたいだとか、子供は自然の中で育てたいだとか言って…
僕は、正直、そんな田舎に住むつもりはなかったけれど、強引な彼女の誘いに仕方なく着いてきたという感じだ。


 「家賃もすっごく安いのよ!
 部屋数は多くなって、家賃が下がるなんて最高だと思わない?」

 「そりゃあ…良いとは思うけど……」

 「ほら、あそこ!」

 咲子は一軒の家を指差した。



 「あの家がどうかした?」

 「あそこを借りようと思ってるの。」

 「え……」

 彼女がそこまで考えてるとは、僕には予想外だった。
 僕は田舎に暮らす気持ちなんてさらさらなくて…
だから、もう少し年を取ってからにしようとか何とか言って、諦めさせるつもりだったのに…


彼女は、僕のそんな想いには気付くことなく、玄関の鍵を開ける。


 「ほら、中はリフォーム済みなのよ。
なんなら今日からだって住めるのよ!」

 確かに中は綺麗になってて、入ると真新しい畳の香りがした。
そればかりか、台所にはすぐにでも料理が作れそうな鍋やまな板が置いてあり、居間にはカーテンがかけられ小さなテーブルも置いてあった。


 「咲子…まさか、君、もうここを契約したんじゃ……」

 咲子は肩をすくめて小さく笑う。


 「そんな……僕はまだここに住むことを承諾したわけじゃない!」

 「でも、あなた、考えてみるって言ったじゃない!」

 「あぁ、言ったよ。
でも、結論はまだ言ってなかったはずだ。
僕は……田舎に住むつもりはない!」

 「そんな…あなたはいやだなんて、今まで一言も言わなかったわ!」

感情の高ぶった僕達の言い争いは止まることなく…
僕は怒りに任せて、家を飛び出した。


そして、それを最後に、咲子は僕の前から姿を消した。
捜索願も出し、僕らも懸命に咲子を探し続けたけれど、彼女の行き先はようとして知れなかった……
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