188 / 239
夕立過ぎて
1
しおりを挟む
(……いつもお世話になりますね。)
私は、もう何年も前につぶれた町工場の軒下に身を置き、濡れた身体をハンカチで押さえた。
この季節、ちょうど仕事が終わった頃に夕立にあうことが多い。
用心深い私はいつも傘を持ってるんだけど、たまたま出くわしてしまうから。
今日は小学生くらいの女の子だった。
先週はおばあちゃん。
私は、幸い身体も丈夫だから、雨に打たれたからってなんてことはない。
だから、傘を貸してあげる。
「うち、すぐそばだから……」
そんな小さな嘘を吐いて。
本当は、家は近くじゃない。
降りだすのが駅の近くだったら、すぐにどこかで傘を買えるのに、私が夕立にあうのは、まだ駅には遠い場所でのことが多い。
だから、よくこの軒下に助けてもらってる。
ここから駅までは雨宿り出来る場所がないから。
空は真っ暗……
当分、この雨はやみそうにない。
バッグから取り出したスマホを見てみても、入ってたのはゲームの紹介メールだけ。
小さな溜め息と共に、スマホを戻し、私は眼鏡と文庫本を取り出した。
流行りにまかせて買ったたいして面白くもない本を読む。
これが電車ならうたた寝も出来るのに、こんなところじゃそれも出来ない。
しばらく読んでも、あまりに退屈で、私はまた本を戻した。
その時、土砂降りの中、傘をさして駆けてくる男性の姿が見えた。
男性はまっすぐにここを目指しているように思えた。
「入りませんか?」
「えっ!?」
「この雨はまだすぐにはやみそうにない。
駅まで一緒に行きませんか?」
その誘いは妙に強引で…でも、男性の笑顔は爽やかでいやな感じは少しもなかったから、私は素直に傘に入れてもらった。
「ありがとうございます。」
「いえ。」
大きな声を出さないと雨の音にかき消されてしまうから、私達はただ黙ったまま、駅を目指した。
私は、もう何年も前につぶれた町工場の軒下に身を置き、濡れた身体をハンカチで押さえた。
この季節、ちょうど仕事が終わった頃に夕立にあうことが多い。
用心深い私はいつも傘を持ってるんだけど、たまたま出くわしてしまうから。
今日は小学生くらいの女の子だった。
先週はおばあちゃん。
私は、幸い身体も丈夫だから、雨に打たれたからってなんてことはない。
だから、傘を貸してあげる。
「うち、すぐそばだから……」
そんな小さな嘘を吐いて。
本当は、家は近くじゃない。
降りだすのが駅の近くだったら、すぐにどこかで傘を買えるのに、私が夕立にあうのは、まだ駅には遠い場所でのことが多い。
だから、よくこの軒下に助けてもらってる。
ここから駅までは雨宿り出来る場所がないから。
空は真っ暗……
当分、この雨はやみそうにない。
バッグから取り出したスマホを見てみても、入ってたのはゲームの紹介メールだけ。
小さな溜め息と共に、スマホを戻し、私は眼鏡と文庫本を取り出した。
流行りにまかせて買ったたいして面白くもない本を読む。
これが電車ならうたた寝も出来るのに、こんなところじゃそれも出来ない。
しばらく読んでも、あまりに退屈で、私はまた本を戻した。
その時、土砂降りの中、傘をさして駆けてくる男性の姿が見えた。
男性はまっすぐにここを目指しているように思えた。
「入りませんか?」
「えっ!?」
「この雨はまだすぐにはやみそうにない。
駅まで一緒に行きませんか?」
その誘いは妙に強引で…でも、男性の笑顔は爽やかでいやな感じは少しもなかったから、私は素直に傘に入れてもらった。
「ありがとうございます。」
「いえ。」
大きな声を出さないと雨の音にかき消されてしまうから、私達はただ黙ったまま、駅を目指した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
転生実況はじまりました ~異世界でも仲間と一緒に~
緋月よる
ファンタジー
ゲーム実況者として活動していた「カラヴィブ」のメンバーたちは、
突然、異世界へと転生することに――。
きっかけは神のミス!しかも転生後、
全員がバラバラの場所に飛ばされてしまった!?
与えられた希少な「鑑定スキル」を使いこなしながら、
この剣と魔法の世界を生き抜く彼ら。
しかし冒険は一筋縄ではいかない。
モンスター、未知の文化、そして別れた仲間たち――。
笑いあり、苦難あり、鑑定あり!
"元実況者"たちが自分たちなりに異世界を切り拓き、
新しい人生を「実況」する!?
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~
丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月
働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。
いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震!
悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。
対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。
・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。
もう少しマシな奴いませんかね?
あっ、出てきた。
男前ですね・・・落ち着いてください。
あっ、やっぱり神様なのね。
転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。
ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。
不定期更新
誤字脱字
理解不能
読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
劣等生は能力を隠す~魔術学院の最強の武術使い~
影茸
ファンタジー
祖父に鍛えられ、最強の武道の遣い手となった東颯斗。
しかし16歳ながら就職し働くこととなった颯斗は余計な騒ぎを起こす事を嫌い、自分が武道を使えることを隠すことを決める。
だが、ある時よく分からない異貌の生物、悪魔に襲われていた女性を救う為に武道を人前で使ってしまう。
「貴方学校に行きたくない?」
「へ?」
焦る颯斗だったが、何故か颯斗は助けた女性の言葉で学校に通うこととなる。
最初は念願の学校に通えると喜んだ颯斗だったが、
ーーー通うこととなった場所は魔術師の学校だった。
魔法が使える訳がない颯斗は劣等生と蔑まれるようになっていく。
だが、颯斗がイジメられることを快く思わない優等生の少女、アイラ・ハルバールが現れる。
そしてアイラと出会った時、颯斗は陰謀の渦に巻き込まれていくこととなる……
これは最強の武術を持ちながら、魔術師の学院で劣等生と蔑まされる少年の物語。
※題名は変更する可能性があります。
3月6日 お気に入り100を超えました!
ありがとうございます!
3月7日お気に入り300突破しました!
ありがとうございます!
3月8日お気に入り500突破しました!
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる