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夕立過ぎて

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(……いつもお世話になりますね。)



私は、もう何年も前につぶれた町工場の軒下に身を置き、濡れた身体をハンカチで押さえた。

この季節、ちょうど仕事が終わった頃に夕立にあうことが多い。
用心深い私はいつも傘を持ってるんだけど、たまたま出くわしてしまうから。

今日は小学生くらいの女の子だった。
先週はおばあちゃん。
私は、幸い身体も丈夫だから、雨に打たれたからってなんてことはない。
だから、傘を貸してあげる。
「うち、すぐそばだから……」
そんな小さな嘘を吐いて。



本当は、家は近くじゃない。
降りだすのが駅の近くだったら、すぐにどこかで傘を買えるのに、私が夕立にあうのは、まだ駅には遠い場所でのことが多い。

だから、よくこの軒下に助けてもらってる。
ここから駅までは雨宿り出来る場所がないから。



空は真っ暗……
当分、この雨はやみそうにない。



バッグから取り出したスマホを見てみても、入ってたのはゲームの紹介メールだけ。
小さな溜め息と共に、スマホを戻し、私は眼鏡と文庫本を取り出した。



流行りにまかせて買ったたいして面白くもない本を読む。
これが電車ならうたた寝も出来るのに、こんなところじゃそれも出来ない。
しばらく読んでも、あまりに退屈で、私はまた本を戻した。



その時、土砂降りの中、傘をさして駆けてくる男性の姿が見えた。
男性はまっすぐにここを目指しているように思えた。



「入りませんか?」

「えっ!?」

「この雨はまだすぐにはやみそうにない。
駅まで一緒に行きませんか?」

その誘いは妙に強引で…でも、男性の笑顔は爽やかでいやな感じは少しもなかったから、私は素直に傘に入れてもらった。



「ありがとうございます。」

「いえ。」

大きな声を出さないと雨の音にかき消されてしまうから、私達はただ黙ったまま、駅を目指した。

 
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