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朧月夜

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菜の花畑に、入り日薄れ……



台所の小さな窓の向こう側に、霞んだ月が浮かんでた。
それを見た私は、無意識に懐かしい歌を口ずさんでいた。



見渡す山の端、霞み深し



ここには菜の花畑も見渡す程の山なんてものもない。
似たような住宅が建ち並ぶだけだ。
自嘲めいた小さな微笑み。
すぐに現実に引き戻され、私は夕食の支度を再開した。



「お待たせ。」

「……ん。」



新聞を折り畳み、主人が料理の並ぶのを行儀よく待つ。



「いただきます。」

二人で手を合わせ、声を合わせる。


「……この煮付け、うまいな。」

「そう?新鮮だったからね。」



口数は少ない。
感情の表現もうまくない。
だけど、この人は何を食べても必ず「うまい」と言う。



「あ、そういえば、川上さん、どうだったの?」

「入院はしなくてすみそうだって。」

「そう、それは良かったわね。」



刺激もなければ、特に面白いこともない、ごく他愛ない会話。



とうとう子供には恵まれなかった。

二人っきりの静かな日々……



「あ、そうだ…これ…」

主人がポケットから出したのはしわになった小さな包み。



「また買ってきてくれたんだ。ありがとう。」



気が向くと、主人は私にアクセサリーを買ってくる。
どこにでもありそうな安いものだ。


すぐに開きもしない私は、いやな奴だ。



この人と結婚したことを後悔したこともある。
もっと素敵な生き方が出来たんじゃないかって。



だけど、今、この人と別れたら……
それこそ、私は深く後悔すると思う。



今夜の霞んだ月のようなこの人は、こんな調子でも、私のことをとても大切に想ってくれている。

今まで一緒に暮らしてきて、それはとてもよくわかってるから…… 
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