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藤棚

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(本当だ。びくともしない……)


藤棚に藤の蔓で留めた簡単なハンモックで、君はとても幸せそうな顔をしていた。 



『藤の蔓はとても強いの。
大昔には石棺を運ぶ時、藤縄でひいてたくらいなのよ。』

どこで仕入れた豆知識なのか、君はそんなことを言ってたね。



昔から、君は藤の花が大好きで……
春になると、あちこちの藤棚を見に行ったね。



昨年のあの日…まさか、こんなことになるなんて、欠片ほども考えることはなかった。



夏の終わり頃、急に体調を崩した君…医師から宣告されたのは、君の命の期限…しかも、信じられない程短いもの。

病魔は君を酷く苦しめた。
人に弱味を見せるのが嫌いな君が、人前で泣くようになるほどに…



「私……藤の花と一緒に散りたいわ。」



……僕は頷いた。
間違っていても構わない。
彼女が死ぬまで抱えているこの苦しみから逃れられるのなら、僕はどんな罰でも喜んで受けよう。



「……とっても綺麗……」



僕は藤棚のある別荘を借りた。
彼女は、それを見て静かに涙を流した。



「ごめんね……こんなことになって……」

「ばーか。今更、何言ってんだよ。」

「生まれ変わっても、また会えるかな?」

「当たり前だろ。僕が一途なこと、君が一番知ってるだろ。
絶対にみつけるよ。」



彼女は何かを言いたげに唇を震わせ……けれど、何も言わずに僕の胸に顔を埋めた。



「ありがとう。幸ちゃん。」



彼女は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
出来ることならこのまま逃げてしまいたい。
だけど、そうしたら、彼女はずっと苦しみから逃れられない。
僕は、彼女の細い首に両手をかけた。
目を閉じ……何も考えず、ただ、その手に力を込め……心の中で彼女に詫び続けた。








(じゃあ、そろそろ僕もいくよ……)



藤棚の片隅に腰を降ろす。
心地好い風に吹かれて、君は本当に気持ち良さそうだ。



(今度は、もっともっと何度も藤の花を見に行こう。おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、ずっと一緒に生きたいね…)



僕は、持ってきた薬を飲み込んだ。
涙が溢れ……薄紫の花の房がゆらゆらと滲んで見えた。

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