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四月馬鹿

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「えーっと…」

俺が差し出した箱を見て、奈緒美さんは困ったような表情を浮かべた。
始発に乗って、わざわざ遠くまで買いに行ってきた上等の魚の干物だ。
しかも、普段の俺ならまず買わないくらいに高かった。

奈緒美さんのことが好きになりすぎた俺は、告白した方が良いかどうかを友達に相談した。
すると、藤森が良いことを教えてくれたんだ。
4月1日は日本ではエイプリルフールなんて言われて、くだらない嘘を吐いてるけど、フランスでは、好きな人に愛の告白をするポワズン・ダヴリルっていう日なんだって。
しかも、この日にした告白は必ずうまくいくと言われてるらしいんだ。


「ほ、本当なのか!
藤森、良いこと教えてくれてありがとう!」

「そりゃあおまえには幸せになってほしいからな。
ただ、少しばかり問題がある。」

「問題…?」

「そうだ。ポワズン・ダヴリルは、魚の格好をして、相手に魚の干物を渡さないといけないらしいんだ。」

「魚の…?」

なんでも、フランスでは魚は愛の精霊と呼ばれているらしいんだ。



「ちょっと恥ずかしいけど…探せばなんとかなるだろう。」

「祐介、なんなら鯉のぼりを着て行ったらどうだ?」

「そりゃ良いな!こいのぼりだったら、うちにもあるから貸してやるよ!」

「あ、あぁ、ありがとう、佐々木。
なぁ…でも、奈緒美さんはその風習を知ってるかな?
もし知らなかったら…」

「ばか。今時、ポワズン・アヴリルを知らないなんて、おまえくらいのもんだぞ。
流行に敏感な女子なら、皆、知ってるって。」

「そ、そっかー…」



かくして俺は、佐々木から借りた薄汚れた鯉のぼりにすっぽり入って……ぱっと見には、鯉のぼりに食われてるような格好だ。
さらに藤森が買ってくれた魚のかぶりものをかぶって、奈緒美さんを近所の公園に呼び出した。

奈緒美さんは僕の格好を見て、一瞬驚き、そしてくすくすと笑った。
そんなことはどうでも良い。ここに来るまでにもさんざん笑われたから。



「えーっと。」

干物の箱を目の前にして、奈緒美さんは困ったような顔を浮かべた。



「どうかよろしくお願いします!」

「……エイプリルフールってこと?」

「違います!
これはマジの告白です!
前からずっと好きでした。
どうか俺の想いを受け取って下さい!」

おかしな格好をしてさんざんあちこちで笑われてきたせいか、俺は自分でも驚くくらい、ストレートに想いを伝えることが出来た。
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