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手編みのセーター

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「うわぁ……」

それは、決して喜んでいる声ではない。
その証拠に、杉浦君は苦笑している。



「昭和度100%だね!
……もしかして、これって手編み?」

「う、うん……」

「わちゃー……おも……」



私は完全なる敗北を感じた。



クラスでも一番の…いや、学校でトップの人気者、杉浦君に私はずっと憧れていた。
それは、きっと恋愛感情というよりは、アイドルに対する気持ちに近いものだったと思う。
それでも、私はいつも何にも出来なくて…自分でも歯痒い想いをしてた。

私達は来年卒業する。
彼の誕生日はもう過ぎた。
バレンタインはいかにも恋の告白っぽいから勇気がないし、杉浦君に何かするとしたら、このクリスマスがラストチャンスだと気付いた私は、心がこもっていて、なおかつ印象に残るものをプレゼントしようと考えた。
何が良いかと夏が終わる頃から考えて、思い付いたのは手編みのセーター。
お母さんが若かった頃には、それが一番喜ばれたって話も聞いた。


私は早速手芸屋さんに向かい、彼に合う毛糸を探した。



(毛糸って高いんだ!)



杉浦君のイメージとはちょっと違うけど、落ち着いたブルーの毛糸が気に入り、手に取ると、一個680円。舶来ものだもん。
でも、これが20個もいるってことは……う、うぎゃー!
もっと安いのにしようかと悩みながらも、ここで安物に変えたら、私の想いも軽い物になってしまいそうで、やっぱり私はその毛糸を買うことにした。

編み物なんてしたことがない。
私は、お母さんとお姉ちゃんに教えてもらいながら、一針ごとに杉浦君への想いを込めるつもりで編み続けた。
だいぶ出来て来てから一目落ちてることに気付いてた時は、お母さんがなんとかしてくれるって言ったけど、全部ほどいてまた編み直して…だから、完成はクリスマスの直前になってしまった。
何ヶ月もかかって、貯金までおろして毛糸を買って……なんだかすっごい充実感。
そりゃあ売り物とは比べものにならないけど、それでも初めてにしてはかなり上手に編めたと思う。
良い毛糸だから、触ってるだけでも温かい。



もしかしたら、杉浦君はセーターに感動して…そして、私に付き合ってくれって言ったりして…
そんなことないとは思いつつも、ついつい勝手な妄想をしては頬が緩んだ。



だけど、現実は全く違ってた。
杉浦君は、セーターを親指と人差し指でつまんでくすくす笑って……



「ま、一応もらっとくわ。
ゴン太の寝床に敷いてやったら温かそうだし……」



ゴン太っていうのが、杉浦君の家の犬だってことは知っている。



杉浦君って、こういう人だったんだ……
あぁ、こんなこと、知りたくなかった……
捨てても良いから、喜んだふりをしてほしかったよ。



なんだか涙が出そうになって、私は唇をぎゅっと噛み締めた。
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