124 / 239
手編みのセーター
1
しおりを挟む
「うわぁ……」
それは、決して喜んでいる声ではない。
その証拠に、杉浦君は苦笑している。
「昭和度100%だね!
……もしかして、これって手編み?」
「う、うん……」
「わちゃー……おも……」
私は完全なる敗北を感じた。
クラスでも一番の…いや、学校でトップの人気者、杉浦君に私はずっと憧れていた。
それは、きっと恋愛感情というよりは、アイドルに対する気持ちに近いものだったと思う。
それでも、私はいつも何にも出来なくて…自分でも歯痒い想いをしてた。
私達は来年卒業する。
彼の誕生日はもう過ぎた。
バレンタインはいかにも恋の告白っぽいから勇気がないし、杉浦君に何かするとしたら、このクリスマスがラストチャンスだと気付いた私は、心がこもっていて、なおかつ印象に残るものをプレゼントしようと考えた。
何が良いかと夏が終わる頃から考えて、思い付いたのは手編みのセーター。
お母さんが若かった頃には、それが一番喜ばれたって話も聞いた。
私は早速手芸屋さんに向かい、彼に合う毛糸を探した。
(毛糸って高いんだ!)
杉浦君のイメージとはちょっと違うけど、落ち着いたブルーの毛糸が気に入り、手に取ると、一個680円。舶来ものだもん。
でも、これが20個もいるってことは……う、うぎゃー!
もっと安いのにしようかと悩みながらも、ここで安物に変えたら、私の想いも軽い物になってしまいそうで、やっぱり私はその毛糸を買うことにした。
編み物なんてしたことがない。
私は、お母さんとお姉ちゃんに教えてもらいながら、一針ごとに杉浦君への想いを込めるつもりで編み続けた。
だいぶ出来て来てから一目落ちてることに気付いてた時は、お母さんがなんとかしてくれるって言ったけど、全部ほどいてまた編み直して…だから、完成はクリスマスの直前になってしまった。
何ヶ月もかかって、貯金までおろして毛糸を買って……なんだかすっごい充実感。
そりゃあ売り物とは比べものにならないけど、それでも初めてにしてはかなり上手に編めたと思う。
良い毛糸だから、触ってるだけでも温かい。
もしかしたら、杉浦君はセーターに感動して…そして、私に付き合ってくれって言ったりして…
そんなことないとは思いつつも、ついつい勝手な妄想をしては頬が緩んだ。
だけど、現実は全く違ってた。
杉浦君は、セーターを親指と人差し指でつまんでくすくす笑って……
「ま、一応もらっとくわ。
ゴン太の寝床に敷いてやったら温かそうだし……」
ゴン太っていうのが、杉浦君の家の犬だってことは知っている。
杉浦君って、こういう人だったんだ……
あぁ、こんなこと、知りたくなかった……
捨てても良いから、喜んだふりをしてほしかったよ。
なんだか涙が出そうになって、私は唇をぎゅっと噛み締めた。
それは、決して喜んでいる声ではない。
その証拠に、杉浦君は苦笑している。
「昭和度100%だね!
……もしかして、これって手編み?」
「う、うん……」
「わちゃー……おも……」
私は完全なる敗北を感じた。
クラスでも一番の…いや、学校でトップの人気者、杉浦君に私はずっと憧れていた。
それは、きっと恋愛感情というよりは、アイドルに対する気持ちに近いものだったと思う。
それでも、私はいつも何にも出来なくて…自分でも歯痒い想いをしてた。
私達は来年卒業する。
彼の誕生日はもう過ぎた。
バレンタインはいかにも恋の告白っぽいから勇気がないし、杉浦君に何かするとしたら、このクリスマスがラストチャンスだと気付いた私は、心がこもっていて、なおかつ印象に残るものをプレゼントしようと考えた。
何が良いかと夏が終わる頃から考えて、思い付いたのは手編みのセーター。
お母さんが若かった頃には、それが一番喜ばれたって話も聞いた。
私は早速手芸屋さんに向かい、彼に合う毛糸を探した。
(毛糸って高いんだ!)
杉浦君のイメージとはちょっと違うけど、落ち着いたブルーの毛糸が気に入り、手に取ると、一個680円。舶来ものだもん。
でも、これが20個もいるってことは……う、うぎゃー!
もっと安いのにしようかと悩みながらも、ここで安物に変えたら、私の想いも軽い物になってしまいそうで、やっぱり私はその毛糸を買うことにした。
編み物なんてしたことがない。
私は、お母さんとお姉ちゃんに教えてもらいながら、一針ごとに杉浦君への想いを込めるつもりで編み続けた。
だいぶ出来て来てから一目落ちてることに気付いてた時は、お母さんがなんとかしてくれるって言ったけど、全部ほどいてまた編み直して…だから、完成はクリスマスの直前になってしまった。
何ヶ月もかかって、貯金までおろして毛糸を買って……なんだかすっごい充実感。
そりゃあ売り物とは比べものにならないけど、それでも初めてにしてはかなり上手に編めたと思う。
良い毛糸だから、触ってるだけでも温かい。
もしかしたら、杉浦君はセーターに感動して…そして、私に付き合ってくれって言ったりして…
そんなことないとは思いつつも、ついつい勝手な妄想をしては頬が緩んだ。
だけど、現実は全く違ってた。
杉浦君は、セーターを親指と人差し指でつまんでくすくす笑って……
「ま、一応もらっとくわ。
ゴン太の寝床に敷いてやったら温かそうだし……」
ゴン太っていうのが、杉浦君の家の犬だってことは知っている。
杉浦君って、こういう人だったんだ……
あぁ、こんなこと、知りたくなかった……
捨てても良いから、喜んだふりをしてほしかったよ。
なんだか涙が出そうになって、私は唇をぎゅっと噛み締めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
転生少女は元に戻りたい
余暇善伽
ファンタジー
平凡な社会人だった飛鳥はある日友人と共に異世界に飛ばされてしまう。しかも友人は少年になっていたのに対して、自分はなぜか少女になっていた。慣れない少女の体や少女としての扱いに動揺したり、異世界での環境に流されながらも飛鳥は元の世界、元の体に戻るべく奮闘していく。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる