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お月見の夜

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「あ、そんなことより、おまえにちょっと頼みがある。」

「……頼み?」

うさぎは真剣な顔で頷いた。



「おまえの持ってるそのすすきで、俺の鼻をこしょこしょしてほしいんだ。」

「こしょこしょ……?」

「俺は餅つきの最中にこっそり抜け出して来たんだぞ。
早く帰らないと、みつかったらやばいじゃないか!」

うさぎはなんだか的外れなことを言って、不機嫌な顔をした。



「えっと……
こしょこしょっていうのは…?」

「あのなぁ…自分ではなかなかうまく出来ないから、おまえに頼んでるんだ!」

そう言われても僕には意味がわからない。
だけど、質問すればする程、うさぎの機嫌が悪くなりそうだったから、僕は素直にこしょこしょすることにした。



「ちょっとまて。
そんなとこじゃだめだろ!
本当に使えない奴だなぁ…
まずは、俺をあそこに立たせろ。」

僕はうさぎを抱っこして、橋の欄干に立たせた。
生意気なうさぎだけど、触り心地はふかふかですごく気持ちが良い。



うさぎは、月に背を向けて欄干に立つと、早くやれと言った。
僕はすすきの穂を、うさぎの鼻先にあててこしょこしょしてやった。



「ふぁ、ふぁ、ふぁ……」

うさぎは短い鼻をもぞもぞと動かして……



「ふぁーーーーーーっくしょーーーーーーん!!!」



「う、うわぁ!」



それは地響きがする程の大きなくしゃみで、僕は尻持ちをついて転び、うさぎはえびみたいに身体を曲げて、後ろ向きに月に向かって飛んでった。
その姿はみるみるうちに小さくなって……やがて、どこにも見えなくなった。







「勇太!あんた、こんな遅くまで……」

「ご、ごめんなさい!
あ、これ、すすき!お月さまにそなえて。
お小言は、ご飯食べてからしっかり聞きます!」



僕は月のうさぎのことは誰にも言わないでおこうと思ってる。
だって、信じてもらえそうにないんだもん。
僕だって、今でも夢を見てたような気がするよ。







「今日の月は特別綺麗だね。」

僕は庭に出て、丸いお月様を見上げた。




「あら、珍しい。
あんたがしみじみ月を見るなんて。
でも、もうそろそろ入りなさい。
今日のこと、しっかりと話し合わなきゃ。」



ついにお母さんのお説教が始まる。
覚悟を決めて、家の中に入ろうとした時、空からなにか白いものが落ちて来るのが見えた。
僕はそれを掴もうと、両手を差し出す。
その中にぽとんと落ちて来たのは、小さな丸いお餅だった。



~fin 
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