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名残の夏

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けたたましいベルの音で私は目を覚ました。
目覚まし時計のボタンを押しこみ、ベルの音が止まった途端、今度は蝉の声が耳に飛びこんで来る。
私の首や顔にじはじっとりとした汗がにじんでいる。
窓には、今日の天気がはっきりと映し出されていた。




(……やった!)



私はにんまりと微笑み、小さく拳を握り締める。
今日も暑い!
普通ならテンションが下がりそうなその事実が、私の気分を高揚させる。



暦の上ではもう秋だ。
確かに、日の暮れる時間もかなり早くなって来た。
でも、暑い…!
かなり暑い!



私の顔には、さらにあやしい笑みが宿る。







「絵里香、その服、すっごく素敵!」

「最近、なんだかえらくおしゃれになったよねぇ…
どうしたの?何かあった?
もしかして……彼氏でも出来たとか!?」

「ないない。そんなの全然ないってば!」




着ているものをほめてくれる同僚達に、私は余裕の笑みを浮かべる。
あぁ、なんだかとっても良い気分。
あの時はちょっと後悔したけど…でも、失敗なんかじゃなかった…!



先日、私は仕事でちょっとしたトラブルがあって……
そのことを友達に愚痴ったら、その子はまともに聞いてくれなくて、余計に苛々して……
次の日、私は、ストレス発散のため、一人で町に繰り出した。
賑やかなショッピングモールでは、夏物の最終処分なんてものをやっていて……
それも、5割引きとか、中には7割引なんてものもあって、その値段に驚きながら、私は服や靴を次から次へと試着した。
最近はずーーっと節約ばかりしていたから、その反動もあったのか、帰りには両手に持ちきれない程の袋が……



家に帰り、冷静になってその衣類の山を見た時……酷く後悔した。
もう夏も終わりなのに、こんなに夏ものばかり買ってしまうなんて、馬鹿みたい……



でも、その後も意外と暑い日が続き、私はそのセール品を毎日とっかえひっかえ着て出社した。
数日経つと、朝、着て行く服を選ぶのが楽しくて、自分でも笑顔が増えていることに気が付いた。
しかも、同僚からはやたらと誉められる。



(衝動買い、バンザイ!
最終処分、バンザイ!)



「あの……」

うきうきした気分で帰っていると、不意に声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは見知らぬ男性。



「私ですか…?」

「あ、はい。
あの…もしお時間があったら……その…お茶でも……」



(お茶……?)



もじもじしたような男性の態度を見て、私はようやく気が付いた。



もしかして、ナンパ…?
急に顔が熱くなる。
だって、この年にして初めてのナンパ…
しかも、こんな古典的な台詞……



よく見てみたら、地味で真面目そうだけどけっこうイケメン。



「は、はい、よろこんで。」

私は焦っておかしな返事をしてしまった。 

 
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