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いるはずのないあなた

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(何やってるんだろ、私…)



夏祭りが行われてる広場の傍で、私は不意に立ち止まった。



どう考えてもおかしい。
見ず知らずの私に突然「花火を見せてもらえませんか?」なんて…
見たかったら、自分でやれば良いじゃない。
それに、そんな事を言われて、のこのこ持っていこうとしてる私自身がおかしい。
あんな約束、あの人だって本気にしてるかどうだか…



(でも……)



あの寂しそうな顔は、なんだかただ事じゃないような気がして…
どうしても放っておけないような気がして、気になってとうとう朝まで眠れなかった。
近くにコンビニでもあれば、花火を買って持っていきたいくらいだったけど、うちの近くのコンビニは先月潰れたからそうも出来なくて…



(……とにかく、話を聞かなきゃ。)



ここまで来てしまったんだもの。
…そうよ、花火も買ったし、会わなきゃ花火が無駄になる。



家にいても落ち付かなくて、昨夜より少し早い時間に着いてしまった。
今日も夏祭りは大勢の人々で賑わっている。
私は人ごみをかきわけて昨夜の公園に向かった。







「本当に来てくれたんですね。」

昨夜のあのベンチに彼は座ってた。
そして、潤んだ瞳で私をみつめて声を震わせた。



「あ…あの…どうして、花火を…」

「……西原俊也です。」

「西原…さん?」

彼は自分の名前を名乗り、ゆっくりと頷いた。



「池波さんでしょう?池波公香さん。」

「えっ!どうして私のことを…?」

彼は困ったような顔をして笑うだけだった。



「どういうことなの?」

「覚えてませんか?中二の時、隣のクラスだった…」

そう言われて、彼の顔をもう一度じっくりと見直したけど、まるで記憶はなかった。



「昨夜、祭りで君の事をみかけてびっくりした。
すぐに君だってわかったけど、どうして君がこんな所にいるのかもわからなかったし、それで確かめるために君の後をつけてきたんだ。」

彼は、確信を持ってそう言うけれど、私にはまるで思い出せなくて…



「あぁ…ここまでいっても思い出してもらえないんだ。」

「ご、ごめんなさい。」

「ちょっと待ってて、冷たいもの買って来るね。」



そういうと彼は駆け出した。
その後ろ姿を見ながら、一生懸命、昔の記憶を引っ張り出そうとしたけれど、どうしても彼の事が思い出せない。
でも、何か意図があって私を騙そうとしているようにも思えない。



彼はすぐに戻って来た。
両手にかき氷を持って、そして、私の目の前で派手に転んだ。



「あっ…!」



その時、私の頭の中で同じシーンが再現された。
片手にパン、片手にジュースを持った学生服の少年が同じように転ぶ姿が…
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