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あの日あの時あの場所で
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「良いの?
本当に、こんな私で良いの?」
「当たり前だろ。
俺は、瞳を愛してるんだから!」
「光彦さん!」
逞しい腕に抱き締められ、私にはもったいないような幸せに戸惑う程だった。
*
「なんだか空気の味まで違うわね!」
「瞳は大袈裟だなぁ。いくら外国だからって空気までは変わらないよ。」
初めての海外旅行に、私は子供のようにはしゃいでいた。
それだけじゃない。
これは、私達のハネムーンなんだもの。
だけど、私は事実上は再婚。
三年程前に私は夫と一緒に婚姻届けを提出した。
けれど、私はそのことばかりか夫のこともまるで覚えてはいない。
届けを出した一週間後が結婚式で、私達はその前日に事故にあった。
そのせいで夫は亡くなり、私は命はとりとめたものの、記憶のすべてを失った。
だから、そんなことも周りの人に聞いて知っただけで私にはまるで覚えのないこと。
そんな私の面倒をみてくれたのが光彦さんだった。
夫の同僚だというだけなのに、彼は献身的に尽くしてくれた。
私が彼のことを信頼するのは当然だけど、彼はこんな記憶のない私を…事故のせいで足にも少し障害の残った私を愛してくれた。
(私は幸福者だわ。失った記憶以上のものを授かった…)
光彦さんは言ってくれた。
記憶なんてまた新たに作っていけば良いって。
*
そんな幸せな時は瞬く間に流れた。
亡くなった夫はかなりの資産家で、光彦さんの仕事も順調…私達は経済的にも豊かな暮らしを過ごすことが出来た。
結婚した次の年には女の子が生まれ、誰もが羨む幸せな毎日を送っていた。
そんなある日、ちょっとした事件が起こった。
それは、ママ友達とハイキングに行った時のこと。
会話に夢中になってるうちに子供達が姿を消した。
「お天気が悪くなってきたわ。急いで探しましょう!」
空はすぐに真っ暗になり、激しい雨が身体を叩き付ける。
そんな中、子供達の名を呼びながら走る私は、目の前に崖をみつけた。
まさかとは思いながら、そこをのぞこうとした途端、私は突然頭痛に襲われ、その場にうずくまる。
頭痛と共に取り戻されたのは、あの日のこと……
私達はスパナを振りまわす不審な男に追い回された。
そう、あの時も急な土砂降りで……
「おまえ、西条じゃないのか!?」
その言葉に、男はゆっくりと目出し帽を取り、そして口許を歪めて笑った。
稲妻がその冷酷な顔をはっきりと映しだし……
それと同時にスパナが振り下ろされ、照幸さんの頭が割れ、そのまま私達は崖をまっ逆さまに転がって行った……
(……あなただったなんて…!)
私は全身の震えを止めることが出来なかった……
本当に、こんな私で良いの?」
「当たり前だろ。
俺は、瞳を愛してるんだから!」
「光彦さん!」
逞しい腕に抱き締められ、私にはもったいないような幸せに戸惑う程だった。
*
「なんだか空気の味まで違うわね!」
「瞳は大袈裟だなぁ。いくら外国だからって空気までは変わらないよ。」
初めての海外旅行に、私は子供のようにはしゃいでいた。
それだけじゃない。
これは、私達のハネムーンなんだもの。
だけど、私は事実上は再婚。
三年程前に私は夫と一緒に婚姻届けを提出した。
けれど、私はそのことばかりか夫のこともまるで覚えてはいない。
届けを出した一週間後が結婚式で、私達はその前日に事故にあった。
そのせいで夫は亡くなり、私は命はとりとめたものの、記憶のすべてを失った。
だから、そんなことも周りの人に聞いて知っただけで私にはまるで覚えのないこと。
そんな私の面倒をみてくれたのが光彦さんだった。
夫の同僚だというだけなのに、彼は献身的に尽くしてくれた。
私が彼のことを信頼するのは当然だけど、彼はこんな記憶のない私を…事故のせいで足にも少し障害の残った私を愛してくれた。
(私は幸福者だわ。失った記憶以上のものを授かった…)
光彦さんは言ってくれた。
記憶なんてまた新たに作っていけば良いって。
*
そんな幸せな時は瞬く間に流れた。
亡くなった夫はかなりの資産家で、光彦さんの仕事も順調…私達は経済的にも豊かな暮らしを過ごすことが出来た。
結婚した次の年には女の子が生まれ、誰もが羨む幸せな毎日を送っていた。
そんなある日、ちょっとした事件が起こった。
それは、ママ友達とハイキングに行った時のこと。
会話に夢中になってるうちに子供達が姿を消した。
「お天気が悪くなってきたわ。急いで探しましょう!」
空はすぐに真っ暗になり、激しい雨が身体を叩き付ける。
そんな中、子供達の名を呼びながら走る私は、目の前に崖をみつけた。
まさかとは思いながら、そこをのぞこうとした途端、私は突然頭痛に襲われ、その場にうずくまる。
頭痛と共に取り戻されたのは、あの日のこと……
私達はスパナを振りまわす不審な男に追い回された。
そう、あの時も急な土砂降りで……
「おまえ、西条じゃないのか!?」
その言葉に、男はゆっくりと目出し帽を取り、そして口許を歪めて笑った。
稲妻がその冷酷な顔をはっきりと映しだし……
それと同時にスパナが振り下ろされ、照幸さんの頭が割れ、そのまま私達は崖をまっ逆さまに転がって行った……
(……あなただったなんて…!)
私は全身の震えを止めることが出来なかった……
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