53 / 239
梅林の花は咲き乱れて
2
しおりを挟む
「携帯を……どんな携帯ですか?
あ…そうだ!私、かけてみましょうか?
近くにあったら音でわかるかもしれないし……」
「あ、その手があったか!
ぜひ、お願いします!
番号は……」
どうしたんだろう、私……
普段ならここまですることはないだろうに……
戸惑いながらも私は言われた番号に電話をかけた。
「あれっ?」
音が聞こえたのはすぐ近く。
しかも、その着信音は私の大好きな映画のテーマソングで……
*
「参ったな…本当に恥ずかしいです。
でも、おっかしいなぁ…
僕、携帯はいつもポケットに入れてるのに……」
着信音の出所は彼の持つバッグの中からだった。
「けっこうそそっかしいんですね。
あ……ご、ごめんなさい!」
「いえ、本当のことですから。」
「あ、あの…それでさっきの着信音なんですけど……」
ベンチに並んで腰掛けて、他愛ない話を交わす。
ただそれだけのことがとても楽しくて……それになんだか昔から彼のことを知ってるような妙な気がした。
「……実はね、僕……」
「なんですか?」
「おかしな奴だと思われるかもしれませんが、僕……昔から梅の花が怖いんです。
だから、ここに迷いこんだ時、なにか悪いことが起きるんじゃないかってちょっと焦っちゃって……」
「えっ!?」
「僕…もしかしたら……」
「もしかしたら……?」
彼は思い詰めたような顔をして沈黙し……
「なんでもありません。
……そんなことより…あの…出会ったばかりでこんなことを言うのは何なんですが……
良かったら、友達になってもらえませんか?」
「え…ええっ!?」
「あ、すみません!
ご迷惑なら……」
「め、迷惑なんてそんなこと……
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!」
私達は連絡先を交換し、近々また会うことを約束した。
聞いてみると、彼が最近引っ越して来たのは私の住む隣の町だということがわかった。
「じゃあ、また…!」
手を振りながら立ち去る彼に、私はぼんやりと思った。
私はきっとこの人と結婚するんだと……
「あ、そうだ……」
歩き出した彼は、手近にあった梅の枝を折り、私の所へ引き返しそれをそっと髪に挿す。
照れ臭そうに微笑む彼がまたその場から立ち去って……
(……私……どうしたんだろう?)
涙が止まらなかった。
特に感動したわけでもなく、悲しいこともなにもないのに、熱い涙が溢れ出して止まらない。
自分でも理解出来ない感情に戸惑いながら、私は両手で顔を覆い涙を流し続けた。
あ…そうだ!私、かけてみましょうか?
近くにあったら音でわかるかもしれないし……」
「あ、その手があったか!
ぜひ、お願いします!
番号は……」
どうしたんだろう、私……
普段ならここまですることはないだろうに……
戸惑いながらも私は言われた番号に電話をかけた。
「あれっ?」
音が聞こえたのはすぐ近く。
しかも、その着信音は私の大好きな映画のテーマソングで……
*
「参ったな…本当に恥ずかしいです。
でも、おっかしいなぁ…
僕、携帯はいつもポケットに入れてるのに……」
着信音の出所は彼の持つバッグの中からだった。
「けっこうそそっかしいんですね。
あ……ご、ごめんなさい!」
「いえ、本当のことですから。」
「あ、あの…それでさっきの着信音なんですけど……」
ベンチに並んで腰掛けて、他愛ない話を交わす。
ただそれだけのことがとても楽しくて……それになんだか昔から彼のことを知ってるような妙な気がした。
「……実はね、僕……」
「なんですか?」
「おかしな奴だと思われるかもしれませんが、僕……昔から梅の花が怖いんです。
だから、ここに迷いこんだ時、なにか悪いことが起きるんじゃないかってちょっと焦っちゃって……」
「えっ!?」
「僕…もしかしたら……」
「もしかしたら……?」
彼は思い詰めたような顔をして沈黙し……
「なんでもありません。
……そんなことより…あの…出会ったばかりでこんなことを言うのは何なんですが……
良かったら、友達になってもらえませんか?」
「え…ええっ!?」
「あ、すみません!
ご迷惑なら……」
「め、迷惑なんてそんなこと……
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!」
私達は連絡先を交換し、近々また会うことを約束した。
聞いてみると、彼が最近引っ越して来たのは私の住む隣の町だということがわかった。
「じゃあ、また…!」
手を振りながら立ち去る彼に、私はぼんやりと思った。
私はきっとこの人と結婚するんだと……
「あ、そうだ……」
歩き出した彼は、手近にあった梅の枝を折り、私の所へ引き返しそれをそっと髪に挿す。
照れ臭そうに微笑む彼がまたその場から立ち去って……
(……私……どうしたんだろう?)
涙が止まらなかった。
特に感動したわけでもなく、悲しいこともなにもないのに、熱い涙が溢れ出して止まらない。
自分でも理解出来ない感情に戸惑いながら、私は両手で顔を覆い涙を流し続けた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -
花京院 光
ファンタジー
魔物討伐を生業とする冒険者に憧れる俺は、十五歳の誕生日を迎えた日、一流の冒険者になる事を決意して旅に出た。
旅の最中に「魔物を自在に召喚する力」に目覚めた主人公が、次々と強力な魔物を召喚し、騎士団を作りながら地域を守り続け、最高の冒険者を目指します。
主人公最強、村人の成り上がりファンタジー。
※小説家になろうにて、990万PV達成しました。
※以前アルファポリスで投稿していた作品を大幅に加筆修正したものです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
前世は元気、今世は病弱。それが望んだ人生です!〜新米神様のおまけ転生は心配される人生を望む〜
a.m.
ファンタジー
仕事帰りに友達と近所の中華料理屋さんで食事をしていた佐藤 元気(さとう げんき)は事件に巻き込まれて死んだ。
そんな時、まだ未熟者な神だと名乗る少年に転生の話をもちかけられる。
どのような転生を望むか聞かれた彼は、ながながと気持ちを告白し、『病弱に生まれたい』そう望んだ。
伯爵家の7人目の子供として転生した彼は、社交界ではいつ死んでもおかしくないと噂の病弱ライフをおくる
わがまま妃はもう止まらない
みやちゃん
ファンタジー
アンロック王国第一王女のミルアージュは自国でワガママ王女として有名だった。
ミルアージュのことが大好きなルーマン王国の王太子クリストファーのところに嫁入りをした。
もともとワガママ王女と知れ渡っているミルアージュはうまくルーマンで生きていけるのか?
人に何と思われても自分を貫く。
それがミルアージュ。
そんなミルアージュに刺激されルーマン王国、そして世界も変わっていく
「悪役王女は裏で動くことがお好き」の続編ですが、読まなくても話はわかるようにしています。ミルアージュの過去を見たい方はそちらもどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる