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葉桜と空の青
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(……どうしたのかしら?)
その年、私の待ち人は来なかった。
十年後の今日、この場所で……と、約束を交わした私の愛しい人は、姿を現さなかった。
こんなことは初めてのこと……
あの人は、十年後も二十年後も、そして、三十年後にも決まってここを訪ねてくれた。
その後は十年ごとではなく、毎年ここに来てくれた。
なのに、今年は来なかった……
待つことには慣れている。
この付近に人が来るのは桜の花が盛りを迎えるほんの短い時期だけで、秋や冬には立ち止まってこの木を見上げる人すらいない。
そんなことは私にとってはどうでも良いこと。
年に一度、あの人が来るその日を待ち焦がれ、私はひたすらここに立ち尽している。
私は寒い日も暑い日もなんとも感じないし、お腹がすくことも、足が痛くなる事もない。
寂しささえも、いつの間にか私の日常の一部分となっている。
だから、私はどれだけだって待つことは出来る……
だけど……
桜がほとんどの花びらを散らせ、明るい緑色の葉と名残の花のコントラストが目にまぶしい季節になっても、彼がここに来ないのは、私を不安な気持ちにさせた。
「……なんだ、こんな所にいたのか。」
背中から聞こえた馴染みのある声に、私は思わず振り返る。
「き、公彦さん…!」
そこに立っていたのは、十年後にここで会うことを約束した当時の彼だった。
とても穏やかな表情で、彼は微笑む。
「……こういうことだったんだね。」
「こういうって……」
「君がどうして来てくれなかったのか、やっとわかったよ。」
「……公彦さん…それじゃあ、あなた……」
「ずいぶん待たせたね。」
思わず飛びこんだ彼の胸は温かかった。
今までのように私が彼の身体をすり抜けることもなく、彼のたくましい腕が私をすっぽりと包み込んでくれた。
「君がここにいる必要もなくなった。
一緒にいこう……」
「で、でも、私……
ずっと長い間ここにいて、ここから動けなくて……」
「……僕がいるから大丈夫だよ。」
彼の屈託のない笑顔が、私の不安を一瞬で溶かしてくれた。
彼の差し出す掌に、私はそっと自分の手を重ねる。
「聞きたいこと、話したいことがたくさんあるんだ。」
「……私もよ。」
私達の身体はゆっくりと浮かびあがり、大きな桜の木を一瞬で飛び越えた。
ここを離れられないのではないかという不安を思い出す暇もなかった。
「あの空の向こうは何色なんだろうね?」
「きっと……桜みたいな色よ。」
「……そうかもしれないね……」
長年過ごした桜の木を見下ろすこともないままに、私達は青い空に吸いこまれて行った。
(……どうしたのかしら?)
その年、私の待ち人は来なかった。
十年後の今日、この場所で……と、約束を交わした私の愛しい人は、姿を現さなかった。
こんなことは初めてのこと……
あの人は、十年後も二十年後も、そして、三十年後にも決まってここを訪ねてくれた。
その後は十年ごとではなく、毎年ここに来てくれた。
なのに、今年は来なかった……
待つことには慣れている。
この付近に人が来るのは桜の花が盛りを迎えるほんの短い時期だけで、秋や冬には立ち止まってこの木を見上げる人すらいない。
そんなことは私にとってはどうでも良いこと。
年に一度、あの人が来るその日を待ち焦がれ、私はひたすらここに立ち尽している。
私は寒い日も暑い日もなんとも感じないし、お腹がすくことも、足が痛くなる事もない。
寂しささえも、いつの間にか私の日常の一部分となっている。
だから、私はどれだけだって待つことは出来る……
だけど……
桜がほとんどの花びらを散らせ、明るい緑色の葉と名残の花のコントラストが目にまぶしい季節になっても、彼がここに来ないのは、私を不安な気持ちにさせた。
「……なんだ、こんな所にいたのか。」
背中から聞こえた馴染みのある声に、私は思わず振り返る。
「き、公彦さん…!」
そこに立っていたのは、十年後にここで会うことを約束した当時の彼だった。
とても穏やかな表情で、彼は微笑む。
「……こういうことだったんだね。」
「こういうって……」
「君がどうして来てくれなかったのか、やっとわかったよ。」
「……公彦さん…それじゃあ、あなた……」
「ずいぶん待たせたね。」
思わず飛びこんだ彼の胸は温かかった。
今までのように私が彼の身体をすり抜けることもなく、彼のたくましい腕が私をすっぽりと包み込んでくれた。
「君がここにいる必要もなくなった。
一緒にいこう……」
「で、でも、私……
ずっと長い間ここにいて、ここから動けなくて……」
「……僕がいるから大丈夫だよ。」
彼の屈託のない笑顔が、私の不安を一瞬で溶かしてくれた。
彼の差し出す掌に、私はそっと自分の手を重ねる。
「聞きたいこと、話したいことがたくさんあるんだ。」
「……私もよ。」
私達の身体はゆっくりと浮かびあがり、大きな桜の木を一瞬で飛び越えた。
ここを離れられないのではないかという不安を思い出す暇もなかった。
「あの空の向こうは何色なんだろうね?」
「きっと……桜みたいな色よ。」
「……そうかもしれないね……」
長年過ごした桜の木を見下ろすこともないままに、私達は青い空に吸いこまれて行った。
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