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あなたに憧れて…
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景気の良いイントロと共に幕がするすると上がり、耳をつんざく歓声と目も眩むようなスポットライトが俺の全身を包み込む。
「今夜は忘れられない夜になりそうだぜ!」
俺の叫んだその一言で、ホールを揺るがすような歓声が上がった。
血が沸騰するような心地良い快感が、俺の身体を突き抜ける。
数え切れない程歌い続けて来たこの曲は、歌詞を考えるまでもなく自然に喉から飛び出して来る。
ついに俺はここまで来たんだ。
数人の客しかいない寂れたライブハウスから、数万人が収容出来る日本一のこの大ホールへ……
集まった数万の瞳が俺を熱くみつめ、俺の名を絶叫する。
まるで、夢みたいだ……
歌いながら、俺はゆっくりと会場を見渡す。
本当に信じられない……
客席はどこもかしこも埋め尽されている。
予約開始後3分でチケットは完売したとは聞いてはいたが、まだどこか信じられない気持ちがあった。
でも、やっぱり本当だったんだ。
「行くぜ~~!」
物思いに耽りながらも、俺は歌詞を間違えることはない。
ここからが一番盛りあがるサビの部分だ.
客も一緒に歌いながら、一斉に同じ振りを始める。
まるで、波のうねりのように皆が同じ動きを……
(あ……)
その中に俺は動かない人影をみつけた。
うねりの中に突っ立ってるのは、中年の男女。
服装も周りの子達とはまるで違う場違いな二人……
(……来てくれたんだ…!)
それは俺の両親だった。
大人になるにつれ話が合わなくなって、俺はまだ十代のうちに家を出た。
母親とはたまに連絡を取っていたが、父親は俺の好きな音楽のことを理解してくれず、家を出てから一度も会う事はなかった。
今回もきっと来るのは母親と妹だと思ってた。
なのに、父さんが……
俺は、込み上げる想いを隠し、気合いをこめてシャウトした。
しばらく見ないうちに白髪が増えて…
なんだか一回り小さくなったような気もする。
気付いていないふりをして、俺はもう一度父さんを盗み見た。
父さんが笑ってる……
どこか照れ臭そうな顔をして……
それを見た途端、俺はまた胸が熱くなり音程を保つのに必死になる。
今夜は父さんと話せるだろうか…?
来てくれてありがとうと俺は言えるだろうか?
そして、いつか打ち明けられる時が来るだろうか?
少々ジャンルは違ってるけど、俺は子供の頃、カラオケで歌う父さんに憧れてこの道に入ったってことを……
ミラーボールに照らされて演歌を歌う父さんがすごくカッコ良く見えたってことを……
(最高の夜だな…)
ライブはまだ始まったばかりだというのに、俺の心の中はすでに満ち足りた気分になっていた。
「今夜は忘れられない夜になりそうだぜ!」
俺の叫んだその一言で、ホールを揺るがすような歓声が上がった。
血が沸騰するような心地良い快感が、俺の身体を突き抜ける。
数え切れない程歌い続けて来たこの曲は、歌詞を考えるまでもなく自然に喉から飛び出して来る。
ついに俺はここまで来たんだ。
数人の客しかいない寂れたライブハウスから、数万人が収容出来る日本一のこの大ホールへ……
集まった数万の瞳が俺を熱くみつめ、俺の名を絶叫する。
まるで、夢みたいだ……
歌いながら、俺はゆっくりと会場を見渡す。
本当に信じられない……
客席はどこもかしこも埋め尽されている。
予約開始後3分でチケットは完売したとは聞いてはいたが、まだどこか信じられない気持ちがあった。
でも、やっぱり本当だったんだ。
「行くぜ~~!」
物思いに耽りながらも、俺は歌詞を間違えることはない。
ここからが一番盛りあがるサビの部分だ.
客も一緒に歌いながら、一斉に同じ振りを始める。
まるで、波のうねりのように皆が同じ動きを……
(あ……)
その中に俺は動かない人影をみつけた。
うねりの中に突っ立ってるのは、中年の男女。
服装も周りの子達とはまるで違う場違いな二人……
(……来てくれたんだ…!)
それは俺の両親だった。
大人になるにつれ話が合わなくなって、俺はまだ十代のうちに家を出た。
母親とはたまに連絡を取っていたが、父親は俺の好きな音楽のことを理解してくれず、家を出てから一度も会う事はなかった。
今回もきっと来るのは母親と妹だと思ってた。
なのに、父さんが……
俺は、込み上げる想いを隠し、気合いをこめてシャウトした。
しばらく見ないうちに白髪が増えて…
なんだか一回り小さくなったような気もする。
気付いていないふりをして、俺はもう一度父さんを盗み見た。
父さんが笑ってる……
どこか照れ臭そうな顔をして……
それを見た途端、俺はまた胸が熱くなり音程を保つのに必死になる。
今夜は父さんと話せるだろうか…?
来てくれてありがとうと俺は言えるだろうか?
そして、いつか打ち明けられる時が来るだろうか?
少々ジャンルは違ってるけど、俺は子供の頃、カラオケで歌う父さんに憧れてこの道に入ったってことを……
ミラーボールに照らされて演歌を歌う父さんがすごくカッコ良く見えたってことを……
(最高の夜だな…)
ライブはまだ始まったばかりだというのに、俺の心の中はすでに満ち足りた気分になっていた。
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