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誕生日
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「わぁ、可愛い。」
「この子は光彦、あなたの弟よ。」
弟が生まれたのは、僕が五歳の時のことだった。
弟の誕生はとても嬉しかった。
だけど、次の日、光彦が死んだと聞かされた。
皆んなが暗い顔をしていた。
僕は悲しかったけど、まだ小さかったからか、いつしか光彦の事を忘れていた。
ところがある日…僕が庭でひとりで雪だるまを作っていた時…
「お兄ちゃん!」
「……誰?」
「わからないの?光彦だよ。」
「え?光彦?」
すぐには思い出せなかった。
だけど、しばらくして思い出した。
「光彦は死んだよ。」
「僕は死んでないよ。
一緒に雪だるまを作ろうよ。」
状況がよくわからなかったけど、僕と光彦は一緒に雪だるまを作った。
家に戻っても、誰も光彦に気付かなかった。
「君は本当に光彦なの?」
「そうだよ。」
僕と光彦は一緒の布団で眠った。
いつもより暖かくて気持ちが良かった。
次の朝…光彦はどこにもいなかった。
僕は夢を見たのだろうか?
よくわからなかったが、家族には話さなかった。
それからまた月日は流れ、僕が中学生になった頃、また彼は現れた。
以前より明らかに大きくなっていた。
僕たちは裏山で暗くなるまでいろいろ話した。
いや、話したのは僕ばかりで、光彦は聞き役だった。
光彦はとても楽しそうに僕の話を聞いていた。
やはり、その日も誰も光彦には気付かなかった。
言いたい気持ちはあったけど、なぜだか僕も光彦のことを話さなかった。
また同じ布団で眠り、次の日には光彦はいなくなり…
そしてまた、不意に光彦が現れた。
だが、僕はそれを予測していた。
気づいたからだ。
光彦が現れるのは、閏年の2月29日、つまり、光彦の誕生日だと言うことに。
光彦は一段と背が伸びていた。
「光彦、誕生日おめでとう。」
「覚えててくれたの?」
「当たり前じゃないか。」
また裏山に行って、ここ数年の出来事を話して聞かせた。
彼は頷きながら、楽しそうに話を聞いていた。
光彦とはその後も何度も出会った。
僕が大人になり、就職し、結婚し…
転勤になっても、やはり光彦は現れた。
僕が歳を取るのと同じく、彼も歳を取っていく。
僕が80を少し過ぎた頃、光彦が言った。
「兄さん、今までどうもありがとう。」
「どうした?何かあったのか?」
「なにもないよ。」
何か得体の知れない胸騒ぎがした。
「もしかして、もう会えないのか?」
光彦は微笑み、首を振った。
「会えるよ。今まで以上に。」
その年の暮れ、私は急な病で亡くなった。
(そうか、これからはずっと一緒なんだな。)
出迎えてくれた光彦に、僕は手を振った。
「この子は光彦、あなたの弟よ。」
弟が生まれたのは、僕が五歳の時のことだった。
弟の誕生はとても嬉しかった。
だけど、次の日、光彦が死んだと聞かされた。
皆んなが暗い顔をしていた。
僕は悲しかったけど、まだ小さかったからか、いつしか光彦の事を忘れていた。
ところがある日…僕が庭でひとりで雪だるまを作っていた時…
「お兄ちゃん!」
「……誰?」
「わからないの?光彦だよ。」
「え?光彦?」
すぐには思い出せなかった。
だけど、しばらくして思い出した。
「光彦は死んだよ。」
「僕は死んでないよ。
一緒に雪だるまを作ろうよ。」
状況がよくわからなかったけど、僕と光彦は一緒に雪だるまを作った。
家に戻っても、誰も光彦に気付かなかった。
「君は本当に光彦なの?」
「そうだよ。」
僕と光彦は一緒の布団で眠った。
いつもより暖かくて気持ちが良かった。
次の朝…光彦はどこにもいなかった。
僕は夢を見たのだろうか?
よくわからなかったが、家族には話さなかった。
それからまた月日は流れ、僕が中学生になった頃、また彼は現れた。
以前より明らかに大きくなっていた。
僕たちは裏山で暗くなるまでいろいろ話した。
いや、話したのは僕ばかりで、光彦は聞き役だった。
光彦はとても楽しそうに僕の話を聞いていた。
やはり、その日も誰も光彦には気付かなかった。
言いたい気持ちはあったけど、なぜだか僕も光彦のことを話さなかった。
また同じ布団で眠り、次の日には光彦はいなくなり…
そしてまた、不意に光彦が現れた。
だが、僕はそれを予測していた。
気づいたからだ。
光彦が現れるのは、閏年の2月29日、つまり、光彦の誕生日だと言うことに。
光彦は一段と背が伸びていた。
「光彦、誕生日おめでとう。」
「覚えててくれたの?」
「当たり前じゃないか。」
また裏山に行って、ここ数年の出来事を話して聞かせた。
彼は頷きながら、楽しそうに話を聞いていた。
光彦とはその後も何度も出会った。
僕が大人になり、就職し、結婚し…
転勤になっても、やはり光彦は現れた。
僕が歳を取るのと同じく、彼も歳を取っていく。
僕が80を少し過ぎた頃、光彦が言った。
「兄さん、今までどうもありがとう。」
「どうした?何かあったのか?」
「なにもないよ。」
何か得体の知れない胸騒ぎがした。
「もしかして、もう会えないのか?」
光彦は微笑み、首を振った。
「会えるよ。今まで以上に。」
その年の暮れ、私は急な病で亡くなった。
(そうか、これからはずっと一緒なんだな。)
出迎えてくれた光彦に、僕は手を振った。
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