１ページ劇場⑤

都会っ子

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「出来た！」



俺は思わず声を上げていた。
なんせ、ようやく貯水タンクが出来たのだから。
簡単だと思っていたが、意外にも難航した。
降った雨を、雨樋を伝わせ、この貯水タンクに貯めるのだ。



「あと少しだな。」



このド田舎の土地を買い、自給自足生活をすると決めたのは三年ほど前のことだ。
都会の暮らしに飽きたというのか疲れたというのか…
とにかく、もう都会にはいたくなかった。
生まれてから30年程住んだ都会には、もう未練も何も無かった。



家ももちろん手作りだ。
DIYは以前からやってたから、自信はあったが、家を建てるのはそう簡単なことではなかった。
わからないところはYouTubeで見て何とかやり遂げた。
でも、三年近く掛かってしまった。
あとは細々したところだ。



貯水タンクで生活用水はなんとかなるが、飲料水をなんとかしなくてはならない。
俺は、井戸を掘ることにした。
YouTubeで見ると、井戸の場所を決めるのも重要なことらしい。
風水師と呼ばれる人に場所を決めてもらった。
さらに、井戸を掘るのは、冬至から夏至の間だということだ。
掘る前には、神主さんを呼んで、水神様に祈りを捧げてもらった。
井戸を掘るだけに、こんなにも色んな手順があるとは知らなかった。
それらをなんとかクリアして、ようやく井戸に着手した。
電気はあるから、井戸さえ出来ればこれからは快適な生活が出来る。
なんだかんだ言っても、やはり文明の利器に頼らなくてはならない部分もある。
電気がなければ、在宅の仕事が出来ない。



結局、都会生まれ、都会育ちの俺には、自給自足の生活は無理だと悟り、俺は三年でまた都会に戻った。
だが、頑張って作った家と、頑張って掘った井戸は俺の誇りだ。
この先、仕事をリタイヤしたら、今度こそ真の意味での自給自足の生活に挑戦したいと、未練がましい夢を抱いている。