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月に涙
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「ほう、見た目だけはなかなか立派なものではないか。」
「これを今回の信長祭りの目玉にするつもりです。」
「さて、どれほど受け入れられるものかな…」
毎年地元で行われる信長祭り。
今年は今流行りのAIを使ったハイテクなイベントを開催する。
信長の蝋人形に、AI搭載の兜をかぶせ、客達の質問に答える、というものだ。
AIには、信長のデータがたくさん登録してある。
骨格のデータから、AIが彼の声を設定し、性格や行動等から、口調も決めてくれる。
これで、あと、体や表情も動いてくれたら最高なのだが、そこまでの予算は出なかった。
AIが高かったから、蝋人形が精一杯だったのだ。
それでも、信長の質問コーナーは、予想以上の盛況ぶりだった。
テレビでも取り上げられ、入場者は昨年の10倍を記録した。
こんなに入るとわかっていたなら、無理してロボットを作っても、採算は取れたかもしれない。
この企画自体、年配の上司にはあまり評判が良くなくて、通すのにだいぶ苦労した。
上司達は、AIが何かということもよくわかっていないのだから。
大盛況の中、信長祭りは幕を閉じた。
客達のいなくなった会場で、僕は、信長と向かい合った。
「お疲れ様。今回の信長祭りはどうだった?」
『大変興味深い催しだった。民達の質問にはなかなか笑わせてもらったわ。』
「それは良かった。
君の出番は今日で一旦終わりだけど、何かやりたいことはあるかい?」
『そうだな。久しぶりに月を見たい。』
「月を?」
それは意外な返事だった。
だけど、出来ないことではない。
信長の蝋人形を抱えて、台車に乗せ、それを窓際まで押して行き、窓を開いた。
幸いなことに、空には満月が浮かんでいた。
『おぉ、良い風じゃ。』
AIは風まで感知出来るのか。
僕はAIの優秀さに驚いた。
『……美しい。』
AIは、とても切ない声で呟いた。
「えっ!?」
ふと見た蝋人形は、涙を流していた。
そんなはずはない。
これはただの蝋人形。
涙を流す機能等ついていないのに。
僕は、呆然と、彼の涙をみつめていた。
「これを今回の信長祭りの目玉にするつもりです。」
「さて、どれほど受け入れられるものかな…」
毎年地元で行われる信長祭り。
今年は今流行りのAIを使ったハイテクなイベントを開催する。
信長の蝋人形に、AI搭載の兜をかぶせ、客達の質問に答える、というものだ。
AIには、信長のデータがたくさん登録してある。
骨格のデータから、AIが彼の声を設定し、性格や行動等から、口調も決めてくれる。
これで、あと、体や表情も動いてくれたら最高なのだが、そこまでの予算は出なかった。
AIが高かったから、蝋人形が精一杯だったのだ。
それでも、信長の質問コーナーは、予想以上の盛況ぶりだった。
テレビでも取り上げられ、入場者は昨年の10倍を記録した。
こんなに入るとわかっていたなら、無理してロボットを作っても、採算は取れたかもしれない。
この企画自体、年配の上司にはあまり評判が良くなくて、通すのにだいぶ苦労した。
上司達は、AIが何かということもよくわかっていないのだから。
大盛況の中、信長祭りは幕を閉じた。
客達のいなくなった会場で、僕は、信長と向かい合った。
「お疲れ様。今回の信長祭りはどうだった?」
『大変興味深い催しだった。民達の質問にはなかなか笑わせてもらったわ。』
「それは良かった。
君の出番は今日で一旦終わりだけど、何かやりたいことはあるかい?」
『そうだな。久しぶりに月を見たい。』
「月を?」
それは意外な返事だった。
だけど、出来ないことではない。
信長の蝋人形を抱えて、台車に乗せ、それを窓際まで押して行き、窓を開いた。
幸いなことに、空には満月が浮かんでいた。
『おぉ、良い風じゃ。』
AIは風まで感知出来るのか。
僕はAIの優秀さに驚いた。
『……美しい。』
AIは、とても切ない声で呟いた。
「えっ!?」
ふと見た蝋人形は、涙を流していた。
そんなはずはない。
これはただの蝋人形。
涙を流す機能等ついていないのに。
僕は、呆然と、彼の涙をみつめていた。
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