１ページ劇場⑤

記念撮影

１

「わぁ、すごく綺麗だね。」



樹は、桜を見あげ、静かに呟いた。
このあたりは桜の名所で、満開の桜並木がずっと続いている。



「うん、本当に綺麗だね。」

私たちは手を繋ぎ、桜を見ながらゆっくりと歩いた。
今日の樹は、いつもより口数が少ない。
その理由に、私は思いあたることがあった。



「樹…本当に良いの？」

「何が？」

「だから…野球部のこと。」

樹はゆっくりと頷いた。



「でも……」

「僕、坊主にはしたくないんだ。」

わかる。わかるよ、その気持ちは。
樹は子供の頃から髪が長くて、本当に綺麗な髪をしてるんだ。
さらさらでつやっつや。
しかも、おしゃれだ。
今までは、野球部でも髪の毛のことは特に何も言われなかった。
野球をやる時は髪をひとつに束ねてた。
だけど、高校に入ったら、髪を丸刈りにしないと野球部には入部出来ないって言われたんだ。
樹は、それなら入らないと断った。
でも、樹は野球が好きだし、野球部にしても戦力になる樹が欲しいんだ。
それが、髪の長さのせいでお互いうまくいかない。



「でも、野球が出来なかったら、寂しくない？」

「また何か、新たな趣味でも探すよ。
陽菜だって、坊主の僕はいやでしょ？」

正直いうと、イメージがわかない。
樹はイケメンだから、似合わないことはないだろうけど、この綺麗な髪を切ってしまうのは確かに残念だ。
でもでも、樹は選抜で甲子園に行きたいとも言ってたし。



「そんな顔しないでよ。
大丈夫だよ。
野球だけが人生じゃないし。」

まぁ、そうだよね。
野球部の部活がなくなったら、今までより樹と一緒にいられるし。
でも、練習をする樹を教室の窓から見るのも好きだったんだけどなぁ。



「ねぇ、樹。桜をバックに写真撮ろうよ。」

「そうだね。どこが良いかな？」

樹はスマホを取り出し、辺りを見渡した。



「あ、ちょっと待って。」

LINEの着信のようだ。
画面を見る樹の顔が明るく輝いた。



「陽菜…髪、切らなくて良いんだって。」

「え！？」

「必ず、僕、甲子園に行くよ。」

「やったね！」



桜をバックに撮った私たちの顔は、最高の笑顔をしていた。