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恋人

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「いらんかもしれんけど…良かったら友達にでもあげて。」

「ありがとう。」

彼から受け取った紙袋は、ずしりと重い。
中身は聞かなくてもわかっている。酒粕だ。
彼の家は、地元では有名な造り酒屋だ。
一番人気のなんとかいう清酒は、確か賞ももらってる。
私は日本酒が飲めないから、飲んだこともないし、名前もいまだに覚えてない。



「なぁ、甘酒ダイエットって知ってる?」

「さぁ、知らんけど。」

「職場の女子が、甘酒ダイエットを始めるから酒粕がほしいてゆうて、それでいっぱいあげたんやけど、全然痩せへんかったらしいわ。」

「そうなん?なんでやろか?」

「よう調べてみたら、甘酒は酒粕からやのうて、酒麹で作らなあかんかったみたいやわ。
そら、そうやわなぁ。
酒粕から作る甘酒には、砂糖使うから、カロリー高いわなぁ。」

「へぇ、そうやったんや。」

他愛ない会話。
彼は言ってみれば、空気みたいな人だ。
強く惹き付けられるようなことはないけれど、逆にイライラしたり嫌な気持ちになることは絶対にない。
邪魔にならない、とでも言うのか。
無理をしなくて良いし、一緒にいて、とても楽な人だ。



一応、結婚も視野に入れている。
彼は三男坊だから、酒蔵を継ぐこともない。



「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」



温かい甘酒を彼に出した。
甘酒なんて、きっともう飲み飽きてるだろうけど、冬はいつも甘酒を作る。
彼にもらった酒粕を溶いて、砂糖を入れ、少しだけ生姜を入れてある。



「あぁ、体の芯から温もるわぁ。
亜紀の甘酒は、ほんま、天下一品やな。」

「大袈裟やなぁ。」

いつも彼はほめてくれる。
こんな、誰にでも作れる甘酒を。



「粕汁もあるで。」

「そやおもたわ。」



彼がしょっちゅう酒粕を持ってくるから、私は甘酒と粕汁ばかり作っている。
粕汁も飽きてるだろうに、彼は文句も言わず、いつも食べてくれる。



レシピサイトを見て、酒粕を使った料理をいろいろ作ってみたけれど、やっぱり、甘酒と酒粕が美味しい。
彼も同じ気持ちのようだ。
本当に彼とは気が合う。



いつプロポーズしてくれるのかわからないけど、その日を私は楽しみに待っている。
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