１ページ劇場⑤

いつまでも

１

「あぁ、痛い…きっと、しもやけだな。」

足先がなんだか痛痒い。
このところ、寒い日が続いたからしもやけになったのだろう。
最近は、ものすごく暖かい靴下があるというが、きっと、高いんだろうなぁ。



「あ、あそこだな。」

少し先に、広い駐車場と大きな建物があった。
あれが、今日の目的地だと理解した。
衣装の入ったゴロゴロを引っ張りながら、俺はスーパーマーケットに向かった。



「今日はよろしくお願いします。」

「こちらこそ。うちには楽屋なんて洒落たものはないから、着替えはそこの部屋を使って下さい。」

「はい、ありがとうございます。」

無造作に荷物の置かれたその部屋には、鏡もない。
だけど、部屋を準備してくれただけでもまだマシだ。



俺は持ってきた一張羅のスーツに着替え、髪を整えた。
すぐに出番だ。



「あ、どうぞ、こちらです。」

連れて行かれたのは、催し物会場だった。
『三倉純一ショー』と書かれている。
パイプ椅子が並べられ、そこにまばらに人が座っていた。



それも当然のこと。
俺の唯一のヒット曲『みちのく子守唄』が売れたのは、もう30年以上も昔のことだ。
若い子は俺の事なんて知らないだろう。
最近はテレビの仕事も滅多にない。
年に一度か二度、懐メロの番組に出させてもらえたら良い方だ。
普段は、こうしてスーパーやスナックで歌わせてもらっている。



「こんにちは。三倉純一です。」

客席から疎らな拍手が起きる。
今日の客は中年から年配者だから、俺の事を知ってる世代だ。
ほっと、胸を撫で下ろした。
知らない世代だと、ヤジを飛ばされたり、途中で席を立たれる。



今日は三曲歌うことになっている。
他人のヒット曲が二曲と『みちのく子守唄』だ。



「では、最後に、みちのく子守唄！」

数人の歓声が聞こえた。
拍手も力強い。
まだ、あの曲を好きでいてくれる人がいる。
だから、俺は歌手活動をやめられない。
世間ではもうとっくに忘れられた存在だけど、俺はこれからも歌を歌い続ける。
『みちのく子守唄』を覚えている人達がいる限り、ずっと。