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おとうと

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「なに、これ?すごく美味しいわ。」

「これは、みたらし団子って言うんだ。僕の好物なんだ。」

「本当に美味しいわ。」



とりあえず、日本に行こうということで、僕はマリーを連れて帰った。
マリーは、日本で暮らしても良いと言ってくれたけど、でも、マリーは日本に行ったことがない。
いざ行ってみて、こんな所では暮らせないと言われるかもしれないのだ。
だから、まずは旅行ということで連れて来たのだ。



僕を探しに日本へ行こうと思ったこともあったらしいが、あまりにも手がかりがなく、カトリーヌも小さく、当時は日本語も出来なかったから、諦めてしまったらしい。
いつか日本に行く日を夢見て、マリーは小銭があれば貯金箱に入れて、本当に、爪に火を点すように、僅かずつ、貯金を続けていたらしい。
カトリーヌやジャンも協力してくれたらしく、いつの間にかけっこうまとまった額になっていた。



「タカシ、私、日本がとても気に入ったわ。」

「本当かい?マリー…」



それからはとても忙しかったけれど、僕らはついに結婚し、日本での暮らしが始まった。
結婚式はフランスで挙げた。
カトリーヌもとても喜んでくれた。



マリーの希望により、郊外に一軒家を買った。
マリーは、庭に木やハーブを植え、楽しんでいるようだった。
日本での暮らしは極めて順調で、僕らの仲も良好で…
そんな時、彼女が体調を崩した。
今までの疲れが出たんだろうと言っていたが、なかなか良くならない。
嫌がる彼女をどうにか説き伏せ、連れて行った病院で、思いがけないことを言われた。
なんと、彼女は妊娠していたのだ。
高齢出産だから心配したのだけれど、彼女は絶対に産むと強い意志を持っていた。



予定日から1週間早く、彼女は出産した。
男の子だった。
やや小さかったものの、とても元気に生まれてきてくれた。
髪の色は彼女に似て金髪だ。
顔も彼女に似ているような気がする。



「名前、どうしようか?」

「日本語の素敵な名前が良いわ。」

「たとえば?」

「真面目、とかどうかしら?」

「う~ん、ちょっとね。」

「そしたら、健康は?」

「まぁ、つけるとしたら健だけかな。」

「そうなの?じゃあ…天才は?」

「ははははは…」



結局、名前は『優』に決まった。
優しい子に育って欲しいからだ。



きっと、優は優しくて素敵な人に育ってくれることだろう。
来年にはカトリーヌとジャンが優に会いに来てくれる。



「マリー、これからも家族みんな仲良く暮らしていこうね。」

「ええ、優のためにも、私達、元気で長生きしなくちゃいけないわね。」

カトリーヌの子育ては、マリーひとりに任せてしまったから、せめて優の子育ては、出来るだけ手伝おうと思った僕だった。
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