上 下
141 / 393
本音

しおりを挟む
「きーっ!こんなもん、出来るか~!」

親父は床にけん玉を叩きつけ、その傍で息子の翔は大泣きする。



「親父ぃ。そうカッカするなよ。」

「うるさい!元はといえばお前が悪いんだぞ。
お前の育て方が悪いから、目上の者をバカにするようなことを言うようになるんだ!」

親父の頭からは湯気が立ち上りそうな噴火具合だ。
要するに、けん玉の得意な翔が、けん玉の技を披露して、親父がそんなことくらいわしにも出来る!と言って、やってみたら出来なかったから、馬鹿にされたんだろう。
だから、かんしゃくを起こした。
確かに翔も悪いが、親父も相当大人気ない。



「翔、泣かなくて大丈夫だ。もうすぐごはんだから、それまで庭で遊んで来い。」

翔は涙を拭きながら、けん玉を持って庭へ向かった。



「親父、顔が真っ赤だぞ。
もしかして、血圧が高いんじゃないか?」

「血圧くらい高くても、死にゃあせん。」

やっぱりそうか、と思った。
お袋が亡くなってからというもの、親父はなんとか一人でやっては来たものの、やはりいろいろと心配だったのだが、案の定だ。
以前の親父はこんなに怒りっぽくはなかった。
きっと、高血圧のせいだ。



「ごはんが出来ましたよ~」

「おぉ、美味そうだ!」

散らかっていたテーブルの上も片付き、そこには夕飯の料理が並んでいた。



「あ、コロッケはもしかして手作りなのか?」

「はい。」

親父は昔からコロッケが好きだと知っていたから、妻が揚げてくれたんだ。



「わ、親父、何すんだよ!」

「こうしたら、コロッケだけで何杯もごはんが食べれるんだ。」

親父はコロッケに、醤油をドバドバにかけていた。
こんなもんばかり食べてるから、血圧が上がるんだ。



「親父、おかずなら他にもたくさんあるだろ。」

親父は気まずそうな顔で頷く。



(やっぱり、俺の決断は正解だ。)



「親父、突然だけど、来月俺達、ここに引っ越してくるから。」

「え!?だ、だって、お前、仕事は…」

「ここの近くの支店に異動させてもらった。」

「だ、だって…」

親父はとても驚いていたが、嫌だとは言わなかった。



ありがたいことに、妻も賛成してくれた。
妻がまともな料理を作ってくれたら、親父の高血圧もすぐにマシになるだろう。



「ううぅ……」

突然泣き出した親父に、目を丸くしていると、翔が親父の背中を優しくさすっていた。



きっと、この同居はうまくいく。
俺はその時そう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

おしがま女子をつける話

りんな
大衆娯楽
透視ができるようになった空。 神からの司令を託され、使うことに......って、私的に利用しても一緒でしょ!

処理中です...