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春休み
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「なかなか良い所じゃないか。」
「ただの田舎だけど、さすがに空気はうまいだろ?」
春休み、同じゼミの三崎と旅行に行くことになった。
行き先は、三崎のばあちゃんの家だ。
とはいえ、三崎のばあちゃんは二年前に他界していて、現在は空き家となっている。
都会の喧騒を忘れ、とにかくのんびりしようということで電車に揺られ、バスを乗り継ぎ、遥々やって来た。
田舎でのんびりしたいだなんて、俺達は、若い割には地味な性格をしているようだ。
「あ、あそこだ。」
三崎が、青い屋根の家を指差す。
「へぇ、けっこう大きな家だな。」
「広いばっかりだ。」
家の中に入ると、三崎は窓を開けてまわった。
気持ちの良い風が、家の中を吹き抜ける。
軽く掃除なんかしていると、誰かが扉を叩いた。
どうやら、近くに住む三崎の伯母さんらしかった。
「釜飯持って来てくれた。」
「へぇ、珍しいな。」
「ここに遊びに来たら、ばあちゃんがいつも作ってくれてたよ。」
三崎はどこか寂しげな顔で微笑んだ。
釜飯は、三崎にとっては、ばあちゃんの思い出の味なんだろう。
「どうかしら?」
「うまいよ。ばあちゃんの味そのものだ。」
「そう、良かったわ。
おばあちゃんに教わった通りに作ったのよ。」
食事は、ありがたいことに、伯母さんが毎日作りに来てくれた。
自宅とはまるで違う広々とした部屋で眠り、昼間は近くの野山や川を散策した。
特に面白いというわけではないが、心が安らぐ。
これこそが俺達の求めていたものだ。
ある日、山の中の祠を通りがかった。
「お参りして行こう。」
「そうだな。」
三崎に着いて、小さな祠に向かった。
「えっ!?」
祠に祀られたものを見てぎょっとした。
姿は大仏なんだけど、顔が犬なんだ。
「犬大仏って言って、動物の守り神みたいなもんなんだ。
なんでも、すごく人のために尽くした柴犬が大仏になったとかなんとか、ばあちゃんが言ってたな。」
「へぇ。」
俺の家にもモコというチワワがいる。
伝説を信じるわけではないが、モコが元気で長生きするように、と、俺は祈った。
楽しい日々は、あっという間に過ぎていく。
「どうだった?」
「うん、また来年も行きたいな。
釜飯も食べたいし。」
「ばあちゃんの釜飯、おまえにも食べさせたかったよ。」
俺も食べてみたかったな。
ばあちゃんにも会ってみたかった。
そんなことを思いながら、俺は電車の振動を子守唄代わりに、微睡んでいた。
「ただの田舎だけど、さすがに空気はうまいだろ?」
春休み、同じゼミの三崎と旅行に行くことになった。
行き先は、三崎のばあちゃんの家だ。
とはいえ、三崎のばあちゃんは二年前に他界していて、現在は空き家となっている。
都会の喧騒を忘れ、とにかくのんびりしようということで電車に揺られ、バスを乗り継ぎ、遥々やって来た。
田舎でのんびりしたいだなんて、俺達は、若い割には地味な性格をしているようだ。
「あ、あそこだ。」
三崎が、青い屋根の家を指差す。
「へぇ、けっこう大きな家だな。」
「広いばっかりだ。」
家の中に入ると、三崎は窓を開けてまわった。
気持ちの良い風が、家の中を吹き抜ける。
軽く掃除なんかしていると、誰かが扉を叩いた。
どうやら、近くに住む三崎の伯母さんらしかった。
「釜飯持って来てくれた。」
「へぇ、珍しいな。」
「ここに遊びに来たら、ばあちゃんがいつも作ってくれてたよ。」
三崎はどこか寂しげな顔で微笑んだ。
釜飯は、三崎にとっては、ばあちゃんの思い出の味なんだろう。
「どうかしら?」
「うまいよ。ばあちゃんの味そのものだ。」
「そう、良かったわ。
おばあちゃんに教わった通りに作ったのよ。」
食事は、ありがたいことに、伯母さんが毎日作りに来てくれた。
自宅とはまるで違う広々とした部屋で眠り、昼間は近くの野山や川を散策した。
特に面白いというわけではないが、心が安らぐ。
これこそが俺達の求めていたものだ。
ある日、山の中の祠を通りがかった。
「お参りして行こう。」
「そうだな。」
三崎に着いて、小さな祠に向かった。
「えっ!?」
祠に祀られたものを見てぎょっとした。
姿は大仏なんだけど、顔が犬なんだ。
「犬大仏って言って、動物の守り神みたいなもんなんだ。
なんでも、すごく人のために尽くした柴犬が大仏になったとかなんとか、ばあちゃんが言ってたな。」
「へぇ。」
俺の家にもモコというチワワがいる。
伝説を信じるわけではないが、モコが元気で長生きするように、と、俺は祈った。
楽しい日々は、あっという間に過ぎていく。
「どうだった?」
「うん、また来年も行きたいな。
釜飯も食べたいし。」
「ばあちゃんの釜飯、おまえにも食べさせたかったよ。」
俺も食べてみたかったな。
ばあちゃんにも会ってみたかった。
そんなことを思いながら、俺は電車の振動を子守唄代わりに、微睡んでいた。
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