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王手!

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「飛車取り王手!」

「や、やられた~!」

僕の前の老人はがっくりとうなだれた。



「さぁさぁ、おじいさんも賢司君も一休みして。」

奥さんが、テーブルに紅茶とケーキを用意してくれた。
甘いものは元々好きだが、脳を使った後に食べる甘いものは格別な気がする。



「まさか、ああ来るとは思わなかったよ。」

「見透かされるような手は使いません。」

「信じられんな。一年でその腕とは。」

「日々、勉強してますから。」

その言葉に嘘はない。
便利屋のバイトを始めてしばらく経った時、将棋の相手を探しているという依頼が舞い込んだ。
東山さんという年配の男性だ。
最初は、将棋のルールを知ってる川田さんが行ったのだけど、あまりに弱いとたった一度でお払い箱になった。
その話を聞いた時、なぜだか僕は将棋に興味を感じてしまった。
独学で将棋を学び、ルールを覚えて、僕はそのバイトに向かった。



立派な御屋敷だとは聞いていたが、想像以上のものだった。
僕はそれなりの自信を持って臨んだが、結局、負けてしまった。
東山さんは長年将棋をさしている。
やはり、そんなに簡単に勝てるものではない。
せっかくルールを覚えたのに残念だと思っていたら、僕はクビにはならなかった。
それからも、度々依頼が入るようになった。
僕を指名して。



僕は暇さえあれば将棋のことを勉強した。
東山さんとの対戦も勉強になった。
そして、約1ヶ月が経った時、僕は初めて東山さんに勝った。
バイトだということも忘れてしまう程、心底嬉しかった。



以来、僕のバイトは東山さんとの将棋が主流となっている。
長い対戦になることもよくあるし、対戦後は甘いものを食べながらのおしゃべりになる。
お金がかかるんじゃないかと心配したが、東山さんは裕福でそのくらいはなんともないようだ。



「じゃあ、今日はこれで…」

「あ、待って。賢司君、良かったらこれ…」

奥さんが僕に紙袋を手渡した。



「え?なんですか?」

「シャツなのよ。おじいさんに買ってきたんだけど、こんな派手なの着れないって。
良かったら賢司君、着てくれない?」

のぞいてみると、赤いチェックのネルシャツが入っていた。
確かにこれは東山さんには派手だ。



「ありがとうございます。着させていただきます。」

これからの季節、ネルシャツは重宝する。

実は、これは元々、僕のために買ってくれたものだったなんて、この時の僕は知る由もなかった。
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