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蝉が鳴く

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「う、うるさいっ!」

窓を締め切って、耳栓をしても頭の中でセミが鳴く。
朝から晩まで、しーしーしーしー、騒がしく鳴き続ける。



「うるさいって言ってるだろが!」

俺は部屋の中のものを手当たり次第に投げ付けた。
乾いた音がして、テレビが割れた。



「あ……」



どうしよう…テレビを壊してしまった。
これからテレビが見られない。
野球中継も、アニメも、特撮ものも、始まったばかりのドラマも。



「あぁぁ……」

俺は散乱した部屋に座り込み、テレビのことを考えた。
テレビがないと生きていけない。
俺の友達はテレビだけなんだから。



新しいテレビを買わないと。
でも、俺にはそんな金はない。
どうしよう、どうしよう。



(やっぱりあれしかない。)



なんとしてもテレビを手に入れないといけない。
だから、金を調達するんだ。



俺は、出かける準備をして家を出た。
何かの破片を踏んでしまって、足から血が出ているが、そんなことは気にならない。
今、重要なのは新しいテレビを買うことなんだから。



外に出た途端、酷い暑さと蝉時雨に頭がくらくらした。
もはや、本物の蝉が鳴いているのか、いつもの耳鳴りなのかもわからない。
うるさ過ぎて、暑過ぎて、気が狂いそうだ。



俺は、見栄えの良くない甘味処に入った。
エアコンもないその店では、薄汚い扇風機が、『強』の風を吹き散らしていた。
客はまばらだ。



「いちごミルク。」



冷たいかき氷を、勢い良くかき込む。
胸が詰まって痛い。
頭もガンガンする。
でも、そのおかげで耳鳴りがよく分からない。
良かった。
この分ならうまくいきそうだ。
赤く染った舌が冷たい。



店を出た俺は、すぐ近くの銀行に向かった。
懐に包丁を忍ばせて。



うまくやらなきゃ。
新しいテレビを買わなきゃいけないんだから。



銀行は、もう目の前だ。








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