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傘はない

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(まだなのかよ。
一体、いつまで続くんだよ。
いいかげんにしろよな。)

俺は、そぼ降る雨を恨めしげに見上げた。



家に戻ると、真っ先に浴室に入った。
冷えた体を熱めのシャワーで温めるんだ。
以前、雨に濡れたまま放置していて、風邪で寝込んだことがある。
その時に学んだんだ。
雨に打たれると、思った以上に体が冷えるから、必ず温めないといけないって。



こんなことになったのは、単に俺の意地のせいだ。
馬鹿馬鹿しいことだとわかっていながら、やめられない。



今年の春、俺は、傘を無くした。
しかも、一本ならともかく、続けて二本なくしたんだ。
俺は、その時、ちょっと高い傘を買った。
高い傘なら、なくさないように気をつけると思ったからだ。
それと同時に俺は誓った。
この傘をなくしたら、今後、二度と傘を買わない、と。
そして、その一週間後、俺はその傘をなくした。



誓ったんだから、もう傘は買わない!
しかし、季節は皮肉なことに梅雨だ。
雨の日が何日も続いた。
俺は帽子をかぶり、雨の中を必死に走った。
それでも、やっぱり濡れる。
濡れたまま、会社で過ごして、熱を出して寝込んだこともあった。
それでも、傘は買えない。
買ったら、俺の負けになるから。



職場では俺がいつも濡れてるから、訝しげに思われているようだ。
傘を忘れたと嘘を吐いてはいるが、皆、おかしいと思っているみたいだ。
変な奴とは思われたくないが、しかし、ここまで来てやめられない。
傘を買ったら、負けなんだから。



梅雨明けは一体いつだ?
どうか、早く明けてくれ!
このままでは、俺はおかしな奴だと思われてしまう。



俺は、今夜もてるてる坊主に祈りを捧げる。
どうか、明日は晴れてくれ、と。
だけど、天気予報は明日も雨。
だろうな。今は梅雨の真っ只中なんだから。
それならば、せめて、駅に着くまで降らないでくれと、切実な想いで祈った。
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