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それでも君を愛せて良かった

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 「父さん、おはよ……あ……」

 父さんの様子がおかしいことにはすぐに気付いた。
その日の父さんは妙に強張った顔をして、僕を睨みつけるようにして…
そして…僕の頬を平手で思いっきり打ったんだ。
 父さんに手を上げられたことは今まで一度もなかったから、僕は何が起こったのかもよく飲みこめないでいた。



 「アベル、ちょっと来い!」

 僕がまだ驚きから覚めないうちに、父さんは僕の腕を掴んで乱暴に引っ張って行った。



 (まさか…父さん……)



 父さんが僕を引っ張って行く先は、間違いなく地下…
僕は悟った。
ファビエンヌのことが、ついに父さんにバレたんだということを…
もしかして、さっき彼女の部屋に行ったのを見られていたのだろうか?
 注意していたつもりだったのに…



父さんは階段を降りると地下の物置きに入り、真っ直ぐにその奥にある小部屋に向かい、粗末な扉が開け放たれた。



 「アベル!これは何の真似だ!」

 「父さん…長い間隠していてごめんなさい。
この子はファビエンヌ。
……僕の恋人です。」

 「アベル…今、何と言った?
おまえはこの人形を恋人だと言ったのか?」

 「そうです。
 彼女は確かに人形だけど…ただの人形じゃない。
 彼女には普通の人間と少しも変わらない心があって、僕も彼女の気持ちがわかる。
 父さん、それに彼女は少しずつ人間に近付いてるんです。
まだ言葉を話すことは出来ないけど…でも……」

 「アベル、馬鹿なことを言うな!
これはただの人形だ!
なのに、おまえはこんなものにジュリエッタのドレスを着せ、そればかりかこんな大切なものまで…!」

 父さんはそう言って、ファビエンヌの首から母さんのロザリオを引き千切った。



 「父さん!やめて!酷いことしないで!
それはファビエンヌが一人でいても寂しくないように、かけてあげたものなんだ。」

 僕は、ファビエンヌの首に傷がついていないかと心配になり駆け寄った。



 「おまえはまだそんなことを…!
 目を覚ませ、アベル!
これはただの人形だ!
 人形に心などない!
 人間になることなんてないんだ!」

 父さんの言葉に、僕は心の底から憎しみを感じた。
 今まで誰にも感じたことのない激しい憎しみを…
何も知らないくせに…ファビエンヌのことを何も知らないくせに父さんはファビエンヌをただの人形だと言ったんだから。



 「そうじゃない!
ファビエンヌは…ファビエンヌはただの人形なんかじゃないんだ!
 彼女は僕のことを愛してくれてる!
 僕だって、彼女のことを真剣に愛してる!
それに…僕達は…心だけじゃなく、身体も繋がってる。
……身も心も繋がってるんだ!」

 「アベル……なんと…
おまえは、なんとおぞましいことを……!」

そう言うと、父さんは怒りに震えながら僕の顔を拳で殴り、小部屋を出て行った。
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