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それでも君を愛せて良かった

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 「アベル、ちょっと酒でも飲まないか?」

 「でも、兄さん…僕、お酒はあんまり…」

 「良いから、良いから。」



その晩、夕食が済んでから、兄さんは僕にそんなことを言って引き止めた。
 兄さんは、友達も結婚式に呼ぶつもりらしく、その連絡のために、数日、ここに滞在するということだった。
 僕は、ファビエンヌの所に行きたかったのだけど、めったに戻って来ない兄さんにそう冷たくするわけにも行かず、少しだけ兄さんにつきあうことにした。



 「アベル…おまえがいてくれて良かったよ。
 父さんの跡を継いでくれて本当に良かった。
 俺はこういう細かい仕事は苦手だし、昔から父さんとはいまひとつ気があわないからな。
おまえにばっかりいやなことを押し付けて悪いとは思ってるんだが…」

 「兄さん、僕はこの仕事が好きなんだ。
それに、父さんと一緒に暮らすのもちっともいやじゃないんだよ。
 何も無理してやってるわけじゃないんだ。」

 「でも、こんな田舎町、退屈だろう?
それに…この町には若い女の子もほとんどいないんじゃないか?
 俺が住んでた頃よりもなんだかさらに人が少なくなってるような気がしたぞ。
おまえ……たまには隣町に遊びに行ったりしてるのか?」

 「遊びにっていうか…たまに材料が足りなくなった時に買いに行く事はあるよ。」

 「馬鹿、俺が言ってる遊びっていうのはそういうことじゃなくて、女のことだよ。」

 「ぼ…僕はそんなこと…!」

 兄さんの言う意味がわかって、僕は急に頭に血が上るのを感じた。
 僕が愛しているのはファビエンヌだけだ。
 他の女なんて、全く興味がない。



 「えっ!?おまえ…確か二十歳だよな?
 二十歳にもなって仕事だけやってるのか?
そんなんで我慢出来るのか!?」

 「兄さん、そんな話なら僕はもう寝るよ。」

 「ま、待てって。」

 席を立とうとした僕の手を、兄さんが引き止めた。



 「すまなかったな。
おまえは本当によくやってる。
 父さんもすごく誉めてたじゃないか。
その指輪もおまえが自分で作ったんだってな。
サイズ直しも自分でやったらしいじゃないか。
おまえには才能があるって父さんすごく嬉しそうだったぞ。
それに……久し振りに会ったおまえは、以前に比べてなんていうか…
そう…自信がついたような感じに見えた。
 少し男らしくなったっていうかな。
だから、もしかしたら女でも出来たのかなって、ちょっと思っただけなんだ。」

 「ぼ…僕は…好きな人は……」

 「いるのか!?」

どう答えるべきかと躊躇った僕は、ただ曖昧に微笑んだ。
 兄さんがそれをどういう風に受け取ったのかはわからなかったけど、その後も兄さんは他愛ない話を続け、結局、明け方まで僕はその場を離れることが出来なかった。
ファビエンヌは僕が行かなかったことをきっと心配して、寂しがっているはずだ。
そのことが気にかかりながらも僕はその場を離れるタイミングを掴めなかった。
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