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帰省

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「おばあちゃん、何してるの?」

私は、おばあちゃんの手元をみつめた。
おばあちゃんは、きゅうりに割りばしを突き刺していた。



「これかい?精霊馬を作ってるんだよ。」

「精霊馬ってなぁに?」

「ほら、ごらん。お馬さんみたいだろ?
御先祖様に早く来ていただきたいから、このお馬さんで迎えに行くんだよ。
そして、ほら…これは牛さんだよ。
お帰りになる時は、出来るだけゆっくり帰っていただきたいからね。」

そんな話を教えてくれたおばあちゃんも、もう10年程前に他界した。
この10年の間に、私は結婚し、子供も出来た。



「はい、出来上がり!」

「わ~。ねぇ、陽菜、可愛い?」

姿見の前で、陽菜がはしゃぐ。



「うん、めちゃめちゃ可愛い!」

それはお世辞でもなんでもない。
初めての浴衣を着込んだ陽菜は、世界で一番可愛く思えた。
きっと、親ばかなんだろうけど。



「おばあちゃんにも見せてくる。」

「転ばないようにね。」

陽菜は、畑に出ているであろう母さんの所へ走って行った。



今年は、父の初盆だ。
まさか、父さんがこんなに早く逝ってしまうなんて思ってもみなかった。
今でもまだどこか信じられないような気持ちだ。
仏壇の前には、昔と同じく精霊馬が飾られている。



ご先祖様も、おじいちゃんもおばあちゃんも…
そして、父さんもこの馬に乗ってここに帰って来たのだろうか…?
そんなことを想像したら、悲しいはずなのにふっと頬が緩んだ。



その時、不意にスマホの着信音が鳴った。



「はい、あ、あなた…どうかしたの?
え?あ、は、はい。ちょっと待ってね。」

私の視線は、目的のものを捕らえた。



「はい、言って。」

私は、手にしたそろばんを弾いていく。
夫はホームセンターで買い物中で、予定外のものを買おうと思ったのだけど、お金が足りるかどうかがわからないということだった。
夫は、計算がとても苦手で、その反面、私は子供の頃からそろばんを習ってて数字には強いから、こんな時は頼りにされてしまう。



「7865円になるけど。
そうなの?良かった。」

どうやら、欲しいものはなんとか買えるようだった。



(まったく、もう。スマホには電卓もついてるっていうのに…)



夫は面倒くさがり屋だから、そんなものはまず使わない。
私も、暗算が得意だからやっぱり使わない。
今だって、本当は暗算でも出来るのだけど、念のためにそろばんを使った。
私が子供の頃から使ってたこのそろばんは、なんと、いまだに現役だ。
母も、電卓よりもそろばんの方が使いやすいという人だから。



「ママー!おばあちゃんに見せてきたよ~!」

トマトを手にした陽菜が外から帰って来た。
顔は赤く、汗びっしょりだ。



「そう、おばあちゃん、どう言ってた?」

「陽菜は世界一、可愛いって!」

「そっか。やっぱりね。」

陽菜の汗を拭いながら、私は小さく笑った。


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