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特製アイス

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「はい、どうぞ、召し上がれ。」

沙也加は僕の前に、しずしずとガラスの器を差し出す。
そこに盛り付けられているのは、僕の大好物のアイスクリーム。
だけど、それは普通のアイスクリームとは少し違う。
いや、見た目は普通だ。
色はベージュっぽくて、お茶系のアイスかな?って思うような色だ。
だけど、これはそんなありきたりのアイスじゃない。
沙也加特製の、たばこ味アイスなんだ。
そんなおかしなものを作ったのには、当然、理由がある。







「えーっ、そんなの無理だって。」

「無理じゃないよ。
うちの両親は、本当に喫煙者が大嫌いなんだから。
それに、たばこは百害あって一利なしって言うじゃない。
これを機に、禁煙しようよ。ね?」

「えー……」



沙也加と付き合い始めてそろそろ三年。
近い将来、彼女と結婚するつもりだから、ご両親にご挨拶にも行かなくてはならない。
だから、禁煙はしといた方が良いのは事実だ。
そうでなくても、世の中は禁煙ブーム…会社でも、たばこを吸える場所は少なくなった。



僕がたばこを吸い始めたのは、社会人になってすぐのことだった。
僕は元々童顔で、社会人になっても高校生に見られるようなことが多かった。
服装や髪形を工夫しても、いつも実年齢より若く見られて…
だから、少しでも大人に見られたくて、無理やりたばこを吸うようにしたんだ。
最初はいやいやだったのに、数年経った今ではたばこがないと口寂しい。
今更、禁煙なんて出来る気がしない。



そんな時、沙也加が提案したんだ。
僕はアイスが大好きだから、たばこ味のアイスを毎日食べたら、満足して本当のたばこは吸いたくなくなるんじゃないかって。
でも、そんなにうまくいくだろうか?



「さ、とにかく食べてよ。」

「う、うん。」



(げっ!?)



一口目で、僕は吐きそうになった。
こんなにまずいアイスは食べたことがない。
いや、まずいどころか、僕の本能が危険を知らせるレベルの酷さだ。



「沙也加、これ、何入れた?
まさか、たばこをほぐして入れたりしてないよな?」

「馬鹿なこと言わないで。そんなことしたら、悟が死んじゃうじゃない。
死ぬようなものは入ってないから安心して。」

確かにたばこっぽい味はする。
ほんのりと甘みだってある。
だけど、この世のものとは思えない程、まずいんだ。



「何止まってんの?
まだまだあるから、いっぱい食べてよ。」



いや、そんなの無理だ。
こんなくそまずいアイス…食べられるはずがない。



そう思うけど、沙也加がじっと見てるから、食べないわけにはいかなくて…
僕は息を止め、まずいアイスを無理やりに飲み込んだ。







「本当にもう大丈夫なの?」

「うん、もう吸いたいと思わない。」



その言葉は嘘じゃなかった。
十日程した時には、僕はもうすっかり禁煙出来ていた。
それはもちろん劇まずのたばこアイスのせいだ。
あのアイスを食べるくらいなら、もうたばこなんて吸わなくても構わない。
そう思えたんだ。
かくして僕は、無事に禁煙することが出来た。



ただ、あんなに大好きだったアイスクリームが、トラウマとなって食べられなくなってしまったことは、予想外だったけど…
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