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秘湯

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「う、うぅん…」

「気が付きましたか!?」

ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうな表情をした女性の顔があった。



「……ここは…?僕は一体…?」

言葉を発してから気が付いた。
僕は今言った通り、何も覚えていなかったのだ。
まるで頭の中の記憶がすべて消されてしまったかのように、何も思い出せず、そのことに薄ら寒い想いを感じた。



「あなたはこの先の崖下に倒れておいででした。
そりゃあもう酷い傷で…
でも、あの崖から落ちて命を落とさなかったなんて奇跡です。」

ふと見れば、僕の腕には包帯が巻かれていた。
 無意識に身体を動かそうとしたら、あちこちがきりりと痛んだ。



「し、しかし、僕は…何も覚えていない。
自分が誰なのかさえ、わからない…」

「頭にも傷を負われていましたからそのせいでしょう。
でも、きっと大丈夫です。
お体が良くなれば、記憶も戻るのではないでしょうか?
焦ることはありませんわ。」

女性の穏やかな笑みを見ていると、なんとなく心が落ち着いた。
そうだ…今はとにかく身体を治すことだけを考えよう…そんな風に思えた。 
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