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side 慎太郎

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 「おめでとさんどす~
 今夜はぱーっとお祝いしまひょな。ぱーっと!」



 宿に戻ると、小餅さんがひとりで盛り上がっていた。
まぁ、確かにお祝いしてもらえるのは嬉しいけど、小餅さんはただ飲んで騒ぎたいだけだから。



 「ご馳走の前に、まずは温泉に浸かりまひょか。」

 「そうですな。
では、そうしましょう。」



 *



 「いやぁ、ええお湯じゃな。」

 「そうだね。
 俺、温泉なんて久しぶりだよ。」

 「慎太郎とこんな風に温泉に来るのは、おまえが子供の頃以来じゃな。」

 「そういえば、そうだね。
じいちゃんと旅行するのは本当にひさしぶりだもんな。
……あ、こないだ、旅行したばかりだったね。
 安倍川さんの家まで……」

 「あれは旅行とは少し違うからな。」



そういえば、あっちの世界でも一度だけ温泉に行ったんだって、ふと思い出した。
 美戎と知り合って、まだ間もない頃、二人で露天風呂に入ったっけ。



 「ゆかりさんとうまくいって良かったな。」

 「うん…まぁね。」

 「これから先、ゆかりさんはこっちで暮らすのか?」

じいちゃんのその質問は、俺の一番の悩み事だ。



 「問題はそこなんだよ。
 俺としたらやっぱりこっちで生活したいけど、でも、ゆかりさんはこっちの世界の人じゃないし……」

 「そんなことは気にすることでもなかろう。」

 「じいちゃん、ゆかりさんには戸籍もないんだよ。
だから、俺達は戸籍上の結婚は出来ない。
それはまぁ良いとして、もしもこの先、子供でも出来たら…
それに、父さんや母さんになんて言ったら良いのか……」

 「そうか……そういう問題があったんじゃな。」

これはこの先避けては通れない大きな問題だ。
それを考えれば、あっちの世界で暮らした方が良いとは思いつつ、両親のことを考えるとそう簡単にも決められない。
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