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「でも、それは……」

イヴは差し出された皮袋をジュリアンに押し戻す。




「何言ってんだ。
これは、町の皆があんたのためにくれた金だぞ。
俺が持ってられるわけないじゃないか。さぁ!」

ジュリアンは、皮袋を無理にイヴの手の中にねじこんだ。



「ジュリアンさん……今回のこと……本当になんと言ったら良いのか…」

ジュリアンのことを気遣うように、ミリアムが小さな声で呟いた。



「おいおい、そんな顔するなよ。
俺はモテるから大丈夫だって、昨日も言っただろ?
俺のことを気にするより、イヴのことを頼んだぜ。
それと、これ……払い戻したら金になるだろう。」

ジュリアンは、ミリアムの前に二枚の乗船券を差し出した。



「だめです。
それはジュリアンさんのお金で買ったものなんですから…」

それが乗船券のことだと推測したイヴが、口を挟む。



「イヴ、新しい生活を始めるには金がかかるんだぜ。
あんたの手術費もかかるんだし、餞別代わりだと思って取っといてくれよ、な。」

イヴはその言葉に首を振り、深刻な顔をして俯いた。



「イヴ…どうかしたのか?」

「ジュリアンさん……
私……手術は受けないつもりなんです。」

イヴの言葉に、ジュリアンばかりではなくミリアムも驚き、目を丸くしてイヴの顔をみつめた。



「イヴ、それが一体、どういうことなんだい!?」

イヴは俯いたまま、言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。



「だって…私は、ミリアムさえいてくれたらそれで幸せなんですもの。
目はもうこのままで良いの。
手術を受ければ大金がかかる…
……第一、絶対に成功するとも限らない…
それに、うまく行かなかったら……きっと、みんなが傷付くと思うんです。
そんな想いをするくらいならこのままの法がずっと…
でも、もしも、ミリアムが今のままの私ではいやだと言うなら、私は……」

イヴの言葉が不意に途切れ、イヴは俯いて細い肩を震わせる。



「イヴ!馬鹿なことを言うんじゃない!
僕は、たとえ君の目が治らなくてもそれで君に対する想いが変わるわけじゃない。
でも、君の症状を話したら、先生はきっと治ると言ってくれた。
恩をきせるわけじゃないけど、僕は君のために今まで頑張ってきたんだよ。
君にこれからもいろんなものを見てもらいたいから、だから、頑張ったんだ…」
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