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「あ……」

いつもより念入りに顔を洗ったジュリアンは、談笑するイヴとエレスを目の当たりにして意外な顔をする。




(……イヴが笑ってる…
それに、あいつもあんな楽しそうに……)



『やっと来たか…
よほど念入りに洗って来たのだな。
しかし、いくら洗った所で造形は変わらんのだぞ。』

「うるせぇ!」

二人のそんなやりとりにイヴは口許を押さえて肩を震わせる。



「……お二人は本当に仲が良いんですね。」



「バ、馬鹿言え、誰がこんな奴と!」

『それはこちらの台詞だ!』



「……羨ましいです。
そんな風になんでも言い合えるお二人が…
……私にはそんな人はいないから…」

そう呟いたイヴの顔に暗い影が差した。



『イヴ…世の中にはいろいろな者がいる。
君を傷付けるような奴ばかりではない。
だから…この先、良い人に出会える可能性はいくらでもある。
希望を…』

「お、おいっ!」

ジュリアンはエレスの腕を掴み、その耳元に囁いた。



(ば、馬鹿!そんなこと言ったら、イヴが悲しいことを思い出すだろ!)

(なぜいけない?私は彼女を励ましているんだぞ。)



「……もうご存知なんですね……」

「え……?」



消え入りそうな小さな声にはっとしたジュリアンが顔を向けた先には、悲しそうに俯くイヴの姿があった。



「あ…あの…えっと…それはだな…」

『昨日、ロナウドから聞いた。』

言葉に詰まりしどろもどろになるジュリアンとは裏腹に、エレスは極めて簡潔に答え、その様子にジュリアンは目を丸くしてエレスをみつめた。




「……そうでしたか…」

『……イヴ…すんだことを悔やんでも何も変わらない。
変わらないだけではなく、そのことにしがみつけば自分自身が苦しむ事になる。
辛いだろうが、現実を受け入れることだ。
……たとえば、この男…
こいつは石にしか興味がなく、馬鹿でがさつで下品だが、決して人を裏切るような真似はしない。
もういい年をしているというのに、そこらの子供よりもずっと純真な魂を持っている。
……イヴ、世の中は捨てたもんじゃないぞ。
そういう人間は意外とたくさんいるもんだ。
もちろん、こいつ程極端ではないだろう。
ロナウドだって、町の皆だって君にはとても優しくしてくれるのではないのか?
傷は必ず治る…気にばかりして毎日包帯をめくって傷口を見るような真似はしない方が良い。
その方が治るのはずっと早くなる。
治らない傷はないんだ…』

静かにエレスの話に耳を傾けていたイヴが、複雑な笑みを浮かべた。
それは笑っているようにも、悲しんでいるようにも見える表情だった。

 
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