553 / 641
091 : 忘却
1
しおりを挟む
「リュック…すまなかった…
私は…自分の事しか考えていなかったようだ…」
「……マ、マルタン!」
「クロワさん…すみませんでした。
私は…自分を見失いかけていました。
自分だけが苦しんでると思いこんで……本当にお恥ずかしいです。」
「そんな…マルタンさんに辛い想いをさせてしまったのは、私のせいでもあるんですから…
マルタンさんの苦しみは…私にもよくわかってます。
なのに、私には何も出来なくて…」
そう言って、クロワはそっと目を伏せた。
「あなたがどれほどジャクリーヌの命を救いたがっていたかということを、私は知ってます。
だからこそ、この現実にあなたがどれほど傷付いたかということもわかるはずなのに…
私は自分のことで頭がいっぱいで、目が曇っていた…
いや、見ようとしなかったのかもしれません。
本当に、私はふがいない男です…」
「私のことは…良いんです。
ただ…私もリュックと同じ気持ちです。
ジャクリーヌのために…どうか、元気になって下さい。
マルタンさんが沈んでいたのではあの子が悲しみます。
あの子が、笑顔でいられるように、どうか…この悲しみから立ち直ってほしいんです。
私は、リュックみたいにせっかちじゃありませんから、いつまでだって待ちますよ。
時間がかかってもかまいませんから…どうか、マルタンさん…」
その言葉に涙が込み上げた。
クロワもリュックも、これほどまでに私のことを考えてくれている…
そのことが改めて感じられると胸がいっぱいになって……私は何と言えばいいのかわからなくなった。
「……リュック…!
今夜は飲もう!飲みまくろう!
今夜の酒はいつもみたいな酒じゃないぞ…
この悲しみを忘れるための酒だ。」
「そんなこと言って、明日の修理をサボろうって魂胆じゃないだろうな!」
「違うさ…
悲しみを忘れて…明日からまたやりなおすための酒さ。
天国で、ジャクリーヌやパスカルさん達が笑顔で喜んでくれるように…」
「あぁ~あ、なんだよ、言ってる傍から涙がこぼれてるぞ!
そんなんじゃ、ジャクリーヌもまだ安心出来ないな。」
「心配するな…涙は今夜でおしまいさ…」
その晩、私達は夜通し酒を酌み交わした。
泣き喚いたり、喧嘩などしない、明るい酒を…
教会の屋根裏で隠れて住んでいた、幸せだったあの頃のパスカルやジャクリーヌの笑顔を思い出しながら…
(ジャクリーヌ、パスカルさん、ノエルさん…
私達はもう大丈夫です。
どうか、安らかに…)
私は…自分の事しか考えていなかったようだ…」
「……マ、マルタン!」
「クロワさん…すみませんでした。
私は…自分を見失いかけていました。
自分だけが苦しんでると思いこんで……本当にお恥ずかしいです。」
「そんな…マルタンさんに辛い想いをさせてしまったのは、私のせいでもあるんですから…
マルタンさんの苦しみは…私にもよくわかってます。
なのに、私には何も出来なくて…」
そう言って、クロワはそっと目を伏せた。
「あなたがどれほどジャクリーヌの命を救いたがっていたかということを、私は知ってます。
だからこそ、この現実にあなたがどれほど傷付いたかということもわかるはずなのに…
私は自分のことで頭がいっぱいで、目が曇っていた…
いや、見ようとしなかったのかもしれません。
本当に、私はふがいない男です…」
「私のことは…良いんです。
ただ…私もリュックと同じ気持ちです。
ジャクリーヌのために…どうか、元気になって下さい。
マルタンさんが沈んでいたのではあの子が悲しみます。
あの子が、笑顔でいられるように、どうか…この悲しみから立ち直ってほしいんです。
私は、リュックみたいにせっかちじゃありませんから、いつまでだって待ちますよ。
時間がかかってもかまいませんから…どうか、マルタンさん…」
その言葉に涙が込み上げた。
クロワもリュックも、これほどまでに私のことを考えてくれている…
そのことが改めて感じられると胸がいっぱいになって……私は何と言えばいいのかわからなくなった。
「……リュック…!
今夜は飲もう!飲みまくろう!
今夜の酒はいつもみたいな酒じゃないぞ…
この悲しみを忘れるための酒だ。」
「そんなこと言って、明日の修理をサボろうって魂胆じゃないだろうな!」
「違うさ…
悲しみを忘れて…明日からまたやりなおすための酒さ。
天国で、ジャクリーヌやパスカルさん達が笑顔で喜んでくれるように…」
「あぁ~あ、なんだよ、言ってる傍から涙がこぼれてるぞ!
そんなんじゃ、ジャクリーヌもまだ安心出来ないな。」
「心配するな…涙は今夜でおしまいさ…」
その晩、私達は夜通し酒を酌み交わした。
泣き喚いたり、喧嘩などしない、明るい酒を…
教会の屋根裏で隠れて住んでいた、幸せだったあの頃のパスカルやジャクリーヌの笑顔を思い出しながら…
(ジャクリーヌ、パスカルさん、ノエルさん…
私達はもう大丈夫です。
どうか、安らかに…)
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる